I apologize! vol.02


「ちわーっす!」
尻尾を振って駆け寄ってくる大型犬……もとい。片手を振って駆け寄ってくる194cmと長身の男は、会場となるビーチより少し離れた駐車場に停まっている車に駆け寄ってきた。
運転席から降りた牧が軽く手をあげて迎える。
「よお。悪かったな、一時間早く練習あがってきたんだろ。今度俺からも副主将に礼を言っておくよ。それより、よく分かったな、車違うのに」
今日は牧の車ではなく、森の兄所有のハリアーに乗ってきていたのだ。中古車とはいえ、磨かれた車体は晴れ渡った青空を映して高級感を漂わせている。
「俺が牧さんを見間違えるわけないって。これ、けっこうな高級車だよね? すっげー。牧さんに似合いますよ〜。あ、越野になんて挨拶せんでいーですよ。俺が主将なんだから」
「だから俺の車じゃないって。それより、そんな言い方するな、副主将に散々助けられてるんだろーが。ただでさえお前は」
「いよー、センドウ君、よく来てくれたね! 待ってたよ強力助っ人〜」
牧の小言が始まる前に森が元気よく二人の間に立った。
「あ、どうも。ええと……林さんでしたっけ」
「あー、おしいね。森だよ、俺。改めて宜しく。ふうん……センドウ君ってこうやって外の明るいとこで見ても色男なんだねー、背もあるしスタイルもいいもんな。うーん、こりゃ牧の言う通りかも。いやぁ、負けたわ。もてるだろ〜センドウ君! 女にも男にも!」
「バカ。何言ってんだお前は。仙道が困ってんじゃねぇか」
牧がパコーンと手にしていた空のペットボトルで明るい茶色で少しウェーブが入った森の頭を叩いた。170cmの森が184cmの牧の手にあるペットボトルを奪って叩き返そうと手を伸ばすが、頭上高くにあるそれに届かず悪態をギャンギャンとわめいているのを見て、それまで目を丸くしていた仙道は白い歯を見せて笑った。

少し遅れて車から降りてきた吾妻が仙道へと手を差し出してきた。
「俺はワレのツマと書いて吾妻ね。今日は宜しく。不本意ながら一応今日のリーダー。チーム名はさっき牧と“watermelon”、スイカって意味だけど。決めといたから、一応覚えておいて」
「こちらこそ宜しくお願いします。スイカって、変わったチーム名ですね」
「他チームも似たようなのあるけど、英語ならかぶらないと思ってね。それに、好きな物の名前は覚えやすいだろ。牧は名前覚えるのが苦手なんだよ。頭はいいのに、それだけは昔から苦手なんだ」
仙道は「俺もです」と軽く笑うと、「知ってるよ」と吾妻はにやりと告げた。何故かと仙道が問う前に吾妻は森に呼ばれて行ってしまったため、仙道の中に微かな違和感が残った。しかしそれも、トランクで荷物を探っている牧の後ろ姿─── 突き出された腰のラインやサーフパンツからのぞく綺麗に引き締まったふくらはぎなどに目を奪われてすぐに霧散した。

十分遅れで貴代子が姉のパジェロで到着した。今回の参加者中紅一点である貴代ちゃんこと高木貴代子。彼女は吾妻の三つ下で腹違いの妹、真智の友達でバドミントン部である。ボーイッシュな服装に似合った、細身のせいか、どこか少年のような手足を持った一重で切れ長の目をした少女だった。
五人は挨拶を交わすと、ビーチパラソル等荷物を持って会場へと歩き出した。
「今日の試合はマジでお遊びだから。元来ビーチバレーは二名一チームだけど、今回のは四名で、しかも女性を最低一名は入れることってなってる。最初は男女二名のつもりだったんだけど、真智のバカが言い出しっぺのくせに……」
「まぁまぁ。足捻挫して一番悔しいのは真智ちゃんなんだから」
「ん? ってことは広田は最初からのメンバーじゃなかったのか?」
「あー、牧には言ってなかったかー。真智ちゃんの代理が奴だったんだ。女子一名につき四点のハンデもらえるけどさ、吾妻と牧がいればハンデ八点もいらねぇから、真智ちゃんの穴埋めは男でも女でもいいっつー話になったワケよ」
「あの、それならどうして森さんが入らなかったんすか? 別に俺じゃなくても」
仙道の言葉に隣を歩いていた貴代子も不思議そうに頷く。
「おや? よくぞ聞いてくれましたねセンドウ君。俺は見かけに違わず頭脳派でね。加えて箸と鉛筆より重たいものは持ってはいけない細い指、走っても競うというよりは舞うような優雅さだから、こう」
「こいつ、もの凄い運動オンチなんだ」
森の饒舌を途中で一刀両断した牧の尻へ森がキックをした。しかし牧は全くよろけることもなく、相手にしないとばかりに歩を止めない。その背へ「俺はテメーのようなスポーツ筋肉バカと違うんだよっ。へっ。オヤジ顔〜! 色黒外人顔め〜! 俺のこのアイドル顔が羨ましいならそうと素直に言いやがれってんだ」と低レベルな罵声を飛ばしはじめた。
しかし吾妻は慣れているのか二人には取り合わずに、うろたえる貴代子と、二人の背を黙って見つめている仙道へ「四人制のルールはインドアのバレーと同じでね、」と簡単にルールを説明し始めた。貴代子は困ったような笑顔を仙道へ向けてきたため、仙道は軽く肩をすくめて苦笑を返した。


大会参加登録も終わり、抽選で組み合わせが発表された。牧のいるチームは第三試合目。とりあえず他の試合を見て場の空気や試合の様子を学ぶ余裕があった。
五人はコートから少し離れた場所でそれぞれに準備をしたり、軽い体操をしながら試合を見ていた。
試合に視線を固定したまま仙道は牧の隣に腰を下ろしてきた。
「……けっこう思ったより大変そっすね」
「そうだな。砂に足をとられて走るのが……タイミングとバランスを上手くとらんと。あ、そうだ。お前、サングラス何とかなったのか?」
電話で必要な物を説明した際、サングラスを持っていないと言っていたことを思い出して訊ねてみれば、仙道は頷いてザックに手を突っ込んだ。
「これ……今朝、植草が貸してくれたんですけど。親父さんの借りてきてくれて……」
いつの時代の物かと驚かされるような、真っ黒でゴツイ縁のプラスチック製のサングラスに牧は絶句した。悲しそうにかけてみせながら、「サングラスってなくちゃやっぱダメなんすかねぇ……」と零した。
爽やかで優しげな風貌が一気に大昔のパンクめいた不良と化してしまい、牧は盛大に笑い出した。驚いた吾妻が何事かと振り向けば、今度は牧と一緒になって、くくくと俯いて笑い始めた。
「う〜ん……こんなにうけるんなら、これもアリなんかなぁ」
笑い過ぎて呼吸が変になりながらも牧は自分のサングラスを仙道へ差し出した。
「これ、やるよ。耳のところはお前の好きに曲げたらいい。スポーツタイプだから少し暖めれば形状いくらか変わるからフィットするだろう」
仙道は掌に乗せられた軽量でシャープなサングラスに目を見張った。
「うっわ……これ、俺聞いたことありますよ。あ、ここにメーカー名ついてる。詳しくは知らないけど、かなり高いんでしょ? だってけっこう衝撃与えても割れないとかって……。もらえないっすよ〜」
「いいからかけてみろよ。……うん。似合ってる。俺よりお前の顔に載ってる方がいい。男前だぞ、仙道」
クリアなブラックのフレームとブラックとパープルのグラデーションが美しい薄いレンズが仙道の高い鼻梁の上で品良く映えていた。実は最初から、いつか仙道にやってもいいと思っていたのだ。以前、二人で海辺を歩いた時に眩しそうな表情を見た時から。
「あ、ありがとうございます……。使わせてもらいます」
「……良かったね、センドウ君。それにしても、牧ってホントにセンドウ君が……。いや、センドウ君の顔が好きなんだな」
「はあ? 俺は合ってるって言っただけだろうが。何言ってんだ?」
想像していたよりもずっと似合っていたため、素直に思ったままを口にしただけだというのに。何を言い出すんだコイツはとあきれて吾妻を振り返ったが、雄弁な溜息を吐いたあげくに背を向けられてしまった。悪気がないのは知っているし、いつものことなので牧はただ小首を傾げた。

「お? 第一試合終わったか。そろそろ俺たちもアップに出ないといけないかな」
試合終了のホイッスルが響き、牧が会場に視線をやると仙道がひっそりと呟くように訊ねてきた。
「あの、牧さんは……。牧さんは自分のサングラス、他にあるんすか?」
「ん? あぁ。三日前に買った。そっちの方が良かったら…」
自分のザックに手を突っ込んだ牧へ仙道は慌てて両手を顔の前で振った。しかし牧はかまわずにケースを取り出すと仙道へ差し出した。
「こっちもかけてみろ。好きな方やるよ」
「や、こっちで十分っす! それよか、牧さんもかけてみせて下さいよ」
「自分で言いたかないが、俺は大体サングラスは似合うんだよ……お前と違う意味でだけど」
元々老け顔なのにサングラスをすれば五歳は上に見えてしまう。しかも顔になじみ過ぎて我ながら日本人離れが酷いと認めざるを得ない。何度か外人と間違われた時も仕方がないと淋しく内心頷くしかなかったものだ。きっと仙道もサングラス一つで森が言ったように『人種ごと変装か!』と笑うだろうと、自棄で言ってみた。
「どうだ? 似合うだろ。日本人とは思えんだろう?」
「ホントだ! すっげカッコイイ! 外人大物俳優にだってこんなカッコイイのいないっすよ! うっわー……。あ、こっち! こっちもかけてみて下さいよ!」
目を輝かせて仙道は手にしていたサングラスを差し出してきた。呆気にとられた牧は驚きながらも律儀にかけかえた。
「おお〜! いっすねぇこっちも! こっちだとレンズのパープルがオリエンタルで日系俳優っぽい。さっきのはフレームのマットブラックが理知的で、ロシアの血が」
大真面目な顔で評しはじめた仙道に慌てた牧は、放っておけば延々と続きそうな手放しの賛美を遮るために仙道の顔へタオルを投げつけた。
「おかしなこと言うな! 何がロシアの血だ、このバカ!」
「え〜。だって牧さん美形だからサングラスも似合ってるよ。綺麗な褐色の肌もだけど、その彫の深さと鼻梁の高さ、そしてこのしっかりした顎のラインはまさに」
「まさにじゃない! 俺は美形じゃねぇ! 美形はお前だ!」
「センドウ君も牧も同レベルだったんだね……」
「「は?」」
背後で呟かれた突然の吾妻の突っ込みに二人の声が重なる。恥ずかしさで勢いあまって牧はぐりんと振り向いた。吾妻はバンドのついたスポーツ用サングラスをしたまま深く何度も頷いてから、おもむろに牧を無視して仙道へと言った。
「最初の紫のグラデーション入った方がセンドウ君には似合うよ。エロくて。あとね」
「は、はい?」
口元以外表情に乏しい吾妻が薄い唇でニイと笑みを形作った。メタルフレームがギラリと太陽光を反射したせいもあり、仙道は引きつった笑みをつられて口元に作っていた。
「牧は美形じゃないよ。まぁ男前の部類だけど。顔の話は森の前であまりしない方がいい。あいつはその手の話題好きだから話が長くなり過ぎて収拾がつかなくなる」
スイと吾妻が伸ばした指の先に、着替えを終えた貴代子と飲み物を買ってきた森が戻ってくる姿があった。
「……仙道、どっちのかけ心地いいか比べなくていいのか?」
「や、マジこっち気に入ってますんで。ありがとうございます」
「そっか。……メンバーも揃ったし、アップ行くか」
「はい」
吾妻の冷静な提言で奇妙に上がっていたテンションが通常に戻り、四試合目にあたる自分達の試合に向けて練習用コートへと向かった。

アップで初めてビーチバレーをした牧・仙道・貴代子は、慣れない砂に足を取られて思ったような連携プレーが出来なかった。しかし経験者である吾妻の的確な「もう飛べ!」「まだ早い!」といった短い指示のおかげで、もともと反射神経が良い三人はほどなくタイミングも掴めるようになり、形になっていった。
「これはいけるわ。参ったな優勝しちまうかも……。もっと下手な助っ人呼べば良かった」
短いアップの後で吾妻は腕組みをしながら呟いた。その背をタオルを手にして走ってきた森がバシンと叩いた。
「言ってられんのも試合前だからだぜ! ほら、あっち見ろよ。あいつらも参加してんのに、練習もしてねぇお前らが優勝できっかよ。あ! 貴代ちゃんお疲れ〜。どう? あと15分後に1セット目開始だけど疲れてないかい?」
「全然平気です。でも、けっこう体力いりますね。慣れないせいかな……。吾妻さんは別として、牧さんも仙道さんも全然息上がってないけど、私もうこんなだもん。足引っ張るのもう見えてきた……」
額の汗を拭った貴代子は悔しそうに唇を噛んだ。大人しそうだけれど、やはりスポーツをやっている者だけはあって、根はかなり負けず嫌いのようだ。隣に立っていた森が軽く流す。
「こいつらと体力一緒にしちゃ駄目だよ。俺だってこんなバケモノみたいな体力ないって! それに根本的に男女差も年齢差もあんだから大丈夫。そんなん皆がカバーしてくれるよ。それより、んな顔しちゃ駄目だよ〜。楽しくやるのが目的なんだから!」
「最初にも言ったけど、公式試合とかじゃないから。怪我だけ気をつけて楽しもう。ほら、牧なんて練習だけでこの楽しそうな顔」
吾妻に指を指されて牧は振り向き苦笑した。先ほどスライしてボールをひろった際、バランスを崩して口に砂が少し入ったのをゆすいでいたところだったからだ。
「キヨちゃんも俺も、牧さんみたいに砂の味を体験すれば、きっと楽しくてたまらなくなるよ。ビーチバレーの醍醐味ってそれなんすよね、吾妻さん」
「その通り。青空の下で文字通り砂を噛むのは大変意義があり楽しいこと。その風味を家でブーたれてる真智に教えてやってほしいな。あ、もうそろそろだね。行くか」
歩き出した時に貴代子と牧の目が合った。
「気負わないで、まずは1セットいっとこう」
軽い牧の笑顔に貴代子は眩しそうに「はい」と微笑んだ。

序盤は緊張感からか貴代子の動きが悪く、最初にいきなりブロック・ブロック・スパイクアウト・ブロックと一気に畳み込まれたが、相手の狙いが貴代子だというのが明確になった。
「ごめんね、貴代ちゃん。ちょっと相手の力を計ってて遅くなったけど、これからは王子三人が姫を守るよ」
吾妻の言葉に牧と仙道も頷いた。貴代子も頷くと、悔しげに噛んでいた唇をほどいて苦く笑い、吾妻の指示で少しネットから下がった。
本当は最初から吾妻の頭の中ではフォーメーションや流れなど全て組み立てられていた。しかし勝気な貴代子を最初から女だからとかばうような陣営を取ればプライドを傷つけそうなため、まずは納得させるために点を捨てた。これも最初から吾妻の計算のうちであった。
タイムが終わる直前に、
「いいトスで助けてね。俺も牧さんもまだ動き硬いからさ」
仙道が片目をパチリと瞑ってみせると、貴代子は数回驚いたように瞬きをすると、「はい!」と顔つきを新たにした。

それからは牧の安定したレシーブやトス、吾妻のコースを突いた鋭いスパイク、仙道の高さを活かしたブロックが面白いように決まりだした。後半には貴代子も硬さが取れて、「喜代ちゃん、男三人いいように使いこなしてんじゃん! 立派な司令塔だぜ!」と驚く森の声援に手を小さく振って応える余裕も出始めた。
結果、初戦から21―18、21―16のストレートで勝つという好スタートを飾った。
貴代子の健闘を讃えつつ、吾妻はボソリと呟いた。
「やっぱり優勝するかもしれん……ヤバイ」
「何だよ、優勝したくなさそうな口ぶりだな。俺は遊びといえどやるからには優勝狙ってるぞ?」
「わぁ〜出たぁ〜、牧の異様な負けず嫌い根性丸出し発言〜! ねぇ聞きました奥様? 練習もしてなければ初めての参加だっつーのにこの恐ろしい身の程知らず。ホンマモンのおバカちゃんじゃござーませんこと? ったく、調子こくなっての。脳ミソ筋肉ってこれだからいやぁねぇ〜。もっかい砂食って目ぇ覚ませってな」
「あ、でも俺も。何かいける気がしてきたんすけど」
仙道の発言に「えぇ〜?」とムンクの叫びポーズをする森へ貴代子は笑った。
「優勝は分かんないけど、5位くらい入れるかも……なんて、私も思えてきましたよ? だって、吾妻さんはもちろんだけど、牧さんと仙道さん、何か目で通じ合ってるっていうか、タイミングばっちり合ってるんだもの」
「あ、やっぱ分かった? 俺ねぇ、牧さんと目で通じ合ってんの、マジで。まさに愛トーク。もうタイミング合うたびに気持ちよくて! ね、牧さん!」
「そうだな。最後のは少しヒヤッとさせられたけど」
「そういえば、相手チームのさー、」森が仙道へ話しかけたため、牧は水分補給に話しの輪から離れた。牧と入れ替わるように吾妻は仙道の横へ立つと、二人が会話中であることを完全無視しておもむろに場違いに冷静な声音で訊いた。
「さっき、センドウ君、アイトークの“アイ”を“ラブ”の愛で言ったでしょ」
驚いた森と仙道はピタリと吾妻へ視線を同時に向けた。その背後にいた貴代子と牧まで動きが瞬時止まる。
「でしょ?」と最後だけ繰り返した吾妻へ仙道はへらりと笑って後頭部をかいた。
「あ、バレちゃいました? もうこれは愛かなーってくらい通じるんで、つい。以心伝心、相思相愛?」
嬉しそうに声を一段大きくして話す仙道に森と貴代子は笑ったが、タオルを被って水を飲んでいた牧は驚いて盛大にむせた。
「やぁだー、センドウさん、変なのぉ。牧さん笑って噴き出してむせちゃってますよー。牧さん、大丈夫ですか?」
「……ゲホッ……だ、大丈…夫……うっ…ゲホッ」
前かがみになって涙目の牧の背を撫でながら吾妻は小声で牧にだけ聞こえるように呟いた。
「似たもの同士だけど、一枚あっちが上手だな」
「……え? な、ゲホ」
訝しそうに苦しげな顔を上げた牧からスイと視線を逸らして吾妻は立ち上がって言った。
「さぁて。2セット目は少し調子上げていこうか」
おー、と森と仙道と貴代子が腕を上げる中、牧だけは訝しい顔のまま吾妻の背中を見ていた。


勝ち上がる度に相手も強くなり、ストレートでは勝てなくなってきたものの、吾妻率いる『watermelon』は試合を重ねる毎にチームプレーに磨きがかかり勝ち進んでいった。
初参加とは思えない強さを見せるだけではなく、スタイルも顔も周囲の視線を引き付けるに申し分ない仙道と牧。そして明るい応援で一人盛り上げる森へと、客席だけではなく負けて時間が出来てしまったチームまでも注目しはじめて、三位決定戦になると『watermelon』目当てのギャラリーは凄いことになっていた。

美人ばかりが集まったと有名なチームとその仲間の一角から華やか且つ熱烈な声援がコートへ入る仙道へ飛んだ。続いて地鳴りのような男達の気合が入った声援が牧へと浴びせられる。
「牧さん、すっげ人気者っすね」
「お前と違って野郎ばっかりだよ、どうせ。お前こそ美人のお姉さん達にいいとこ見せようなんて変に格好つけて転ぶなよ」
「俺がんなヘマする男に見えますか」
「結果によるな」
「それはまぁ……チームプレーすから」
二人の会話を聞いてた貴代子が緊張した面持ちで呟いた。
「私のせいで負けたら……どうなっちゃうんだろ。ほ、本当にギャラリー沢山過ぎます……」
「大丈夫。負けたらセンドウ君が水着のお姉ちゃん大好きの助平君で、勝ったら牧が男の声援で張り切ったって話なだけだから」
「吾妻! 何勝手な結論こいてんだ!」
「そんな程度の話ってこと。始まるから位置につけよ」
吾妻が牧の背中を押して位置につかせると、貴代子の肩の力が抜けたような軽い笑い声と周囲の笑い声が重なった。

傾き始めてはいるが、まだまだ強い陽光が吾妻のサングラスのフレームから弾かれるように光る。
相手は同様に男三人の女一人、何度か優勝経験がある、森が言っていた実力のある有名チームで今大会でも優勝候補だ。常連チームならではの熱いファンの応援がペットボトルを打楽器とした賑やかな音と共に始まった。
そんな周囲の入り混じる声援の波を突き抜けるように、高らかに開始のホイッスルと審判の声が響いた。








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ビーチバレーの描写がかなり手抜きくさくてすいません…観戦すらしたことないもんで(汗)
サングラス牧を描きたくなりました。でも牧の格好よさを表せる画力がないのよ〜(涙) 


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