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悲しいかな俺は昔から、何故か女より男に告白されることが多い。 同性愛に偏見があるわけではないが、賛同した覚えもなく、どちらかといえば小さくてポッチャリした女性が好みな健全男子だというのに。 たまに女子に告白されても、大体が170cm超えのスポーツウーマンタイプか、痩せ細って繊細そうな人だった。 二年前、俺は好きな女が出来た。のんびりして大らかな性格でポッチャリした彼女は、よく練習試合の時に見に来ていたし、クラスが同じこともあり軽い話をする程度には近しかった。あの練習試合の日も見に来ていた彼女に俺は試合が終わったあと、さりげなさを装って隣に立った。 『また見に来てたんだ。休みの日にまで来るなんて、かなりバスケ好きになった?』 『バスケ見るのはもともと好きだけど……今日は私、目当ての人がいて』 『……え?』 『お願い、牧君! 私、翔陽の藤真さんが好きなの! あのジャニ系で可愛くて綺麗な顔をもっと近くで見たいの! 彼女になりたいなんて贅沢言わない、見てるだけでいいの。だから牧君、ちょっと藤真さんを誘ってあっちで何か話してくれない? こっそり写真だけでも撮りたいの〜!』 ─── 告白する前に俺の淡い初恋は、まぁそんな感じで全く望みなしな状況で消えた。おかげで未練は全く残らず、それどころか、それが縁(?)で俺にとってただ一人の女友達となって現在に至る。 ちなみに数えたくないほど男には告白されており、それらは詳しく思い返して一々あげたくもない。もちろん全て断ってはきたが、気を使って遠まわしに断っては誤解をうけて酷い目にあったことは痛い教訓となっている。 とにかく。俺が学んだ事は、“断る時は容赦なく”が良いということだ。 少しでも期待をもたせては、かえって結果的に相手に勝手な希望をもたれ、挙句の果てに逆恨みを受けるからだ。二度断れば友人として関係を続けたい奴であっても、友人関係すら消滅してしまう。逆にキッパリサッパリ断れば、最初は違和感が互いに残っても時間が解決してくれて友人関係は続く。 だからこそ先手必勝とばかりに、気付いてから数日後に俺から切り出したのだ。 『お前、俺のこと好きなんだろ』 そういった時、あいつは一瞬にして真っ赤になりながらも表情だけは変えないという奇妙な技を使ってみせた。 『なんすか、唐突に。どしたんすか?』 『すまん。でもそうだろ。やめろよ、そういう意味で近づいてくるならもう会わないからな。俺は男を恋愛対象としては見れん』 『近づいてくるってのは、俺が他校の後輩だってのに頻繁に遊びに誘うことっすか?』 『お前は理解し難い奴だが、遊ぶのは好きだ。面白い。そっちじゃなくてだな……』 『さっき俺が牧さんのケツを触ったようなやつ? あれは冗談で、ただのスキンシップだよ?』 『さっきのは関係ない。話をまぜっかえすな。お前はこんな話をしだした俺を、変な意味で自意識過剰な奴と思うか? 唐突だと、本当に思うのか?』 『………思ってません』 『そうだろ。……選んでくれないか。俺と今後も友人として仲良くやってくのと、明日から個人的に遊ぶようになる前の…バスケ関係での知人というだけの間柄に戻るのとを』 『…………』 つい先ほど綺麗な薔薇色を浮かべていた頬が、その時には紙のように白くなっていた。 長い沈黙に息苦しくなった頃、ようやくあいつは気丈にもその白すぎる頬で笑ってみせた。─── 眉毛だけは笑うことに失敗していたけれど、それでも軽くふざけた口調で。 『……二者択一しかないんなら、俺は来週の映画をキャンセルされないですむ方をとりますよ。チケ、頑張って安く2枚入手したんだから』と。 その後、俺は自分がなんて言ったかもどうしたのかも覚えていない。とりあえず今も変わらず会って遊んでいるのだから、その当時の俺は奴をあまり傷つけずに、かつ友人関係を壊さずにすむよう立ち振る舞えた……ということにしておいている。 あれでも俺にしては言葉を選んだ方だった。かなり悩んで考えて切り出したつもりだ。だからあいつが俺への恋情を捨てて、変わらず側にいるという返答は本当に嬉しかった。あいつとだけは疎遠になりたくなかったから。 俺は今まであれほど緊張して切り出したことはなかったから、返事をもらうまでの沈黙が酷く怖かった。正直をいえば二度と体験したくないほど辛かったせいか、半年たった今でも昨日のことのように覚えている ─── 肩を掴まれて牧は驚きに顔を上げた。広い敷地に専門分野ごとに独立した校舎が点在する構内の遊歩道脇に沢山設置されているベンチ。その一つに牧は同じ学部の仲間三人と座っていた。木陰と自然の風が気持ちよくて目を閉じていた間に寝ていたらしい。まだ5月の半ばだというのに夏を思わせる陽射しが目に飛び込んできて牧は眩しさに目を眇めた。 「何睨んでんだよ。まさかマジ寝してたん?」 肩に置いていた手をよけた森の白い顔は逆光のせいか、少し怯えているように見えた。 「睨んでねぇよ。……もう行く時間か?」 「うんにゃ、まだまだ。あのさ、今週の日曜の海なんだけどさ」 「……17日の海?」 バレー部だが身長の低い吾妻が形も色も薄い唇を僅かに尖らせて、ひょいと森の肩越しに顔を覗かせた。 「牧、寝呆けてんなよ。前から頼んであっただろ。ビーチバレーの助っ人。お前、その日の午後は部活ないって言ってただろ。今更ドタキャンなんてなしだぜ?」 そういえばそんな約束もしていたと、また半年前のことを思い返しているうちに寝ていたらしい頭をしゃっきりさせるべく、牧は立ち上がって伸びをした。最近どうもぼんやりしている時はあの時の奴─── 一つ年下で陵南高校のバスケ部主将である、長身で涼しげに整った仙道彰という男の白い頬を思い返してしまう。どうして最近になってそんな前のことを……。陽射しの白さがあの時だけ見せた真っ白な頬を思い起こさせるせい……なわけはないだろうけれど。 「覚えてるよ。行ける。明後日の正午が受付開始時間なんだろ」 「そうそう! それがよ、広田が行けなくなったんだと。吾妻・牧・貴代ちゃんっつーたら、やっぱもう一人は身長高い奴欲しいんだよね。牧の舎弟、何て名前だっけ。あの、ツンツン頭の奴。あいつ入れれないかな? 頼んでみてくれよ」 両手を合わせて拝むようにした森の横で吾妻もいつもの無表情のまま同じポーズをした。 「舎弟って何だよ。仙道のこと言ってんのか?」 「そう、そいつ! ほら、こないだお前とセンドウが飯食ってる時に俺と吾妻も会ったじゃん。愛想もあって面白い奴だったし、背もかなりあっただろ。それにあの面なら俺らのチームも外野の応援増えそうじゃねぇ? まぁ、俺のキュートなビボウには敵わねぇけど、俺は参加しねーからさぁ」 森は自分で言うほどに絶世の美男子ではないが、確かに整った顔の部類ではあった。白く小さな顔にぱっちりした二重の目と小さな口は、昔、神奈川の双璧と言われ牧とバスケットでのライバルであった藤真という男を思わせる面立ちである。藤真を知らなければ牧としても素直に頷いてもやるところだが、 「お前は売れない三流アイドルってとこだろ。仙道はお前と全くタイプが違う。奴は正等派の二枚目だ」 「おー? そーいうこと言ってくれるわけぇ? この色黒老け」 「二人とも話ズレてる。森の話は置いといて、俺もセンドウって奴がいいと思う。バレー部の奴は上手すぎて洒落にならん。かといって全くの運動経験ない奴にいきなり遊びとはいえ試合は荷が重い。他の部で身長があって気軽に誘えるようなのいないんだよ。けど海南バスケ部から二人もってのは……」 吾妻が濁した先は牧には言われずとも察せられた。我が海南大は伝統的にバレー部とバスケ部は仲が悪い。個人的に遊びの参加とはいえバレーの試合に同校のバスケ部から二名も助っ人が入ったと互いの部内に知れれば面倒が起こるのは必至だ。例え後輩である海南大附属高校のバスケ部生徒を呼んだとしても系列から同じようなことになりそうで、牧としてもそれは避けたいところだった。 「……あいつ、高三だからそんな暇じゃないと思うぞ」 溜息をつきながら携帯を取り出した牧に森と吾妻は揃って首を上下させた。
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TさんとKさんからネタをいただいたので、それを私なりに妄想して膨らませてみます。
一応ギャグになるのではと思ってますがどうなるかな〜。レッツラスタート♪ |