ああ |
So cute. |
あ |
いつもの待ち合わせ場所のベンチには先客がいた。仙道は遠くから少し様子を窺っていたが空きそうにないため、ひとつ年上の恋人が通う高校の校門近くで待とうとその場を離れた。 校門の傍には座って待っていれそうな場所はなく。少々離れている自転車置き場横の、座るには手ごろな小さいコンテナへ腰を下ろした。 落ち着いたところで辺りを見回せば、もうすっかり日は落ち人影もない。 時折運動部員らしき体格の良い男子高生数名が校門へ向かって歩いていくくらいだ。そんな中の一人が手を振って校門と別方向へ行ったため、別の出口が気にかかりはじめる。 (やっぱメールすっかな。別ルートで出られたらすれ違っちまうし) ポケットを探ろうとしたところでやけに元気な声が聞こえてきて、仙道はそちらを見やった。 「女って何考えてっかさっぱりわかんねー。何でこんなカッコイイ人に、クマのぬいぐるみなんてファンシーな物をプレゼントしようとか思うかな!?」 「自分が好きな物を相手にもとでも思ったんじゃないか?」 腹立たしさそのままに声を張り上げている少年より背の高い隣の男がのんびりと返す。 顔は逆光で見えないが、声や背格好から高身長の方が牧だとすぐに気付く。ではその隣を歩いているのは同校バスケ部一年でスタメンの信長かなと判断する。 一年と三年という珍しい組み合わせに、仙道は声をかけるより先に聞き耳をたてた。 「え〜? 相手が好きそうな物や相手に似合う物を選ぶのがプレゼントの鉄則じゃないすかあ。大体、あんなピンクのでっけぇリボンくるくる巻いて、中身丸見えの物をすよ。カッコイイ男が持って帰るのは恥ずかしいんじゃないかとか考えないってのが、もうわかんねー!」 プレゼントされた本人より我がことのように憤慨しているのが笑える。 「まあ、確かに俺には似合わんな、ああいった可愛らしい物は」 「そっすよ! 牧さんにはこう、ガーッと格好良くって、ビシッとしたもんが似合うんです!!」 「なんだよそれ。さっぱりわからんぞ?」 「だからこう、ビシッとしつつグアーッとワイルドで、なおかつクールなもんすよ!! 持ってるだけでサスガ牧さん、ってな感じの!」 「余計わからん。俺が…………ても………だろうが……」 特に大きくもない牧の声は遠ざかるにつれ聞こえなくなっていった。 (後輩にすげー懐かれてんだな〜。まあ俺も他校とはいえ後輩だけど?) 仲の良い親子の会話みたいで微笑ましいため邪魔をしたくはないけれど。こちらとしても恋人との久々の短い逢瀬の時間をむざむざと減らせない。 「ごめんね、信長くん」 仙道はスマホを手にするとメールを打ち出した。 「待ちくたびれてここまで来ちまったのか?」 走って戻ってきてくれた牧さんは息ひとつ乱れてはいなかった。きっと校門を出てからそう経たないうちにメールを見てくれたのだろう。 「んーん。いつものベンチが先客で塞がっててさ」 仙道が並び立つと、牧は入ってきた校門とは違う方向を指差した。どうやらあちらからも出られるらしい。今回はたまたま校門から出ようとしてくれたから見つけられたけど、今度は最初からメールで聞こうと頭の中にメモをする。 「そうか、けっこう引き返しただろ。大変だったな」 別の待ち合わせ場所も決めておかないといかんな……と、牧は独りごちた。 「それよか牧さん、女の子から何を贈られそうになったんです? 持ってないってことは受け取らなかったんでしょ?」 「聞いてたのかよ」 僅かに驚いた顔をされ、仙道は悪戯っぽく肩をすくめる。 「信長君、声でかいから」 「あー…。こんなだだっ広くて静かだと余計に響くな」 牧は首の後ろをカリカリとかくと、仕方なさそうに話しはじめた。 「来週転校するから記念に貰って欲しいとかなんとか……。バスケ部のユニフォームを着たクマのぬいぐるみと、何か四角いもの。クマだとわかったのは透明のセロファンで包装されてたからだ。もうひとつの方は紙で包んであったから中身は知らん」 思ったよりもきちんと自主的に全て教えられ、恋人として大事に思われているように感じて妙にくすぐったい。別に女の子からどんな理由で何をもらったって気にはしないし、ただ会話を中途半端に聞いていたせいで少し気になっただけなのに。 普段の自分を意識しながら仙道は短く返す。 「ふーん。そりゃ確かに随分とこった可愛い代物すね」 「あぁ。可愛かったよ。しかし受け取ったら色々面倒そうだから断った」 「まあ断るよね。……けっこう牧さんって可愛い物好きだよね〜」 「嫌いではないな。集めたいと思うようなことはないが」 気負いのない自然体で返す彼に、つい口角が上がってしまう。 「俺ねえ、牧さんのそーいうトコも好きすよ」 「どういうところだ」 「可愛いものが好きなところ。それを隠さない男らしいとこもね」 「隠してはいないが、好きかと聞かれたことすらない。可愛いものが好きかどうかなど聞いてきたのはおまえくらいだ」 「牧さんはね、可愛い物を見る時間がほんの少しだけ長いからさ」 本当にほんの数秒だけどね、と続ければ、微かに目を瞠られた。 「お前の観察眼には恐れ入るよ」 「そう? 越野なんかにはザル目って言われてるけど。開いてても何も見てねー使えねーって。そんなら俺、あんたのことだけはしっかり見えてるんだね」 唐突に牧の手が仙道の後頭部をわしわしと乱雑に撫でまわした。 褒められたのか照れ隠しなのかわからないが、久し振りに触れてもらえて嬉しかった。 交差点が青になったのと同時に牧の手は離れていった。 もう少し撫でてくれてもと思っていると、牧が口を開いた。 ※ここからの続きは「仙牧」と「牧仙」の2バージョンをご用意しました。
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