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So cute. 〜 Ver.仙牧 〜 |
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< Ver.仙牧 > 「……俺の自論だが。大多数の男は可愛いもの好きだと思っている」 「どうして? あ、それには俺も含まれてんすか?」 間をおかず牧は小さく頷いた。 「女は大体可愛い外見をしている。少々辛辣だったり怖かったりしても、それでも男は女に惹かれる」 「なるほどねぇ。確かにそういう視点だと大多数の男に当てはまる」 「アイドルの握手券商法が成立しているのは、それだけ『可愛い女の子』を好きな購買層がいるってことだ」 さらりと言ってのけた精悍な頬を、仙道はしげしげと見つめてしまう。 「牧さんがその手のことを知ってるなんて、ちょっと驚いた。バスケとサーフィンのこと以外は興味がないと思ってたから」 「確かに興味はないが、俺だって世情くらいはいくらか知っている」 仙道はにやりと片方の口角を上向ける。 「その話、ソースは武藤さんでしょ?」 ビンゴだったのだろう、牧は渋い顔で黙してしまった。 下世話系の情報元が彼には少ない。仙道としては好ましいことなのだが、彼自身は知識の隔たりがどうとか小難しいことを考えるのか、この手の類の指摘には不満げに口を閉ざしてしまう。 こういうところは見かけに反して年相応で、そこもまた好きなだけに。彼が好まない流れとわかっていながら、ついツッコミを入れてしまうのが自分の悪いところだ。 機嫌を損ねたいわけではないため、仙道はすぐに話の矛先を己へ向ける。 「それはいいとして。その理論だと俺は含まれないすよ。だって俺、女の子を好きになったことねーもん」 「…………そうだな」 何故か彼はますます眉間の皺を深くさせて、全くこちらを見ないまま返事を寄越した。 不服さを隠せていないくせに肯定で返されてしまい、やけに引っ掛かる。 女の子にもだが、彼のように可愛い物に対し自分は全く興味がない。それでも俺を可愛いもの好きと、迷う素振りもなく最初に頷いた根拠はなんだろう。他者を憶測で軽々しく判断などしない人だから、何かそう思わせるものがあるはずだ。 (俺が可愛いと感じて好む物なんて…………もの……者なら、いるじゃねぇか) 表情の読めない顔で二歩ほど先を行く肩へ手をかけ、仙道は頬を寄せる。 「……ごめん、自覚が遅くて。俺、確かに可愛い人がすっげー好きだわ。ごめんね?」 「謝られる謂れはない」 「いや、これは謝らなきゃでしょ。だって俺、あんたを抱きしめるたびに、牧さん可愛い〜牧さん可愛くって大好き〜って毎度煩いくらい言っ、っってえ! まじで痛いよ牧さん!」 肩に置いた手の甲をギリリとつねられて、仙道は声をあげた。 しかしその声を遮るように牧が悪態をつく。 「煩ぇ、耳元で騒ぐな。往来でこっ恥ずかしいこと言いやがって。ここで殴られねぇだけありがたく思いやがれ」 腹立たし気に今度は仙道の手を叩き落とすと、牧は歩調を早めた。 もちろん余裕で追いつき並び歩く仙道は、牧の横顔を真面目な顔で覗き込む。 照れ屋の彼も流石に会う度、『あんたが一番可愛い、大好きですよ』と煩く言われ続けて二年も経てば自覚をしてくれたのかと。気を抜くと脂下がってしまいそうになる。 いや、自覚したのではなく恋人である俺には可愛く映っている、という程度の認識か。だって未だに『俺は可愛くない!』と本気で返してくるのだから。 (どちらにせよ、俺が可愛いもの好きだと迷わず頷いてみせたのは、盛大に褒めてあげないといけねーな。今後のためにも) 今夜どこか二人きりになれる場所─── 最悪人気のない路地裏にでも引っ張り込めないかなと考えを巡らしていると。剣呑な光を含んだ琥珀色の瞳が仙道を見据えていた。 「…………なに人の顔をジロジロ見てんだっ」 「いや〜ホント俺、自分のことに鈍いなぁ〜ってね」 怒気を削ぐ呑気な口調につられたのか、嫌そうながらも牧が返事を寄越してくる。 「今度はなんだ」 「俺なんてちょっとどころか、あんたのことは一日中眺めてたいじゃん? つまりは俺の方があんたより可愛いもの好きってことなんだなーって」 「頭湧いてんのか?」 「牧さんの理論からいったらそーなるよね?」 好まれていると自覚しているスマイルを浮かべて見せれば、牧さんの面食らったような顔は困ったように変化していく。 「相手にするのもバカバカしい。……仕方ない、バカにつける薬でも買いに行くか」 「行きましょう行きましょう。俺、いいトコ知ってんすよ」 照れを隠しきれず弱り切った苦笑いを浮かべる可愛い恋人の硬い手を、仙道はぎゅっと握りしめた。 * end * |
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牧としてはきっと、こんないかつい自分を可愛いと感じる仙道の感性はおかしいと
思っているのでしょう。でもそんなおかしい感性の仙道も好きだと思ってもいるはず。 この後はどこか二人きりで「あんたが可愛い」「お前の方が可愛い」と たっぷりイチャコラしながら言い合うのでしょう。ラブラブですなv |