So cute. 〜 Ver.牧仙 〜

< Ver.牧仙 >


「……俺の自論だが。大多数の男は可愛いもの好きだと思っている」
「どうしてそう思ったの?」
「女は大体可愛い外見をしている。少々辛辣だったり怖かったりしても、それでも男は女に惹かれる」
「なるほどねぇ。確かにそういう視点だと大多数の男に当てはまる」
「アイドルの握手券商法が成立しているのは、それだけ『可愛い女の子』を好きな購買層がいるってことだ」
 さらりと言ってのけた精悍な頬を、仙道はしげしげと見つめてしまった。
「牧さんがその手のことを知ってるなんて、ちょっと驚いた。バスケとサーフィンのこと以外は興味がないと思ってたから」
「確かに興味はないが、俺だって世情くらいはいくらか知っている」
 仙道はにやりと片方の口角を上向ける。
「その話、ソースは武藤さんでしょ?」
「さあ。どうだったかな」

 軽くはぐらかされてしまったが、別にどうでも良かったので話を戻す。
「それはいいとして。その理論だと俺たちには当てはまらなくなるね」
「なんでだ?」
「なんでって……。俺もあんたも、女の子に興味ないじゃん。アイドルにも」
「お前はそうだな。だが俺には当てはまる」
「あんたアイドル好きじゃなかったよね?」
 牧は軽く首肯するとフッと片側の口角を上げるように笑った。
「アイドルなんか目じゃないくらい、可愛い奴に惹かれている」
「? …………え。はあ??」
 訝し気な顔をした仙道の耳たぶを牧がつまむ。
「可愛いぞ」
「ちょっとやめてよ、からかうの。っ、なんすか、んなジロジロ見て」
「俺が可愛いものを長く見てしまう習性だと言ったのはお前だろ?」
「!? 牧さんの揚げ足取り〜!!」

 からかわれて不貞腐れた頬を突っつかれそうになり、首を捻ってかわす。
 軽くまた笑いを零した牧は、ふいに思いついたように真顔になった。
「そうだ、訂正しておこうか。俺は最近、可愛いものを写真に撮り溜めている」
「そうなの? あんたが写真とか、なんか意外〜。見たいな、今持ち歩いてないの?」
 牧はスマホをポケットから出してみせる。
「まだ三枚と枚数は少ないが、これから増える予定だ。見るか?」
「いんすか?」
「特別に見せてやる。他言するなよ」
「しませんよ」
 内緒というほど可愛いものとはどんなものだろう。彼によっぽど似合わないような可愛いものとは……仔猫の寝顔……ひよこが箱の中いっぱいとか?

 仙道は期待を膨らませてフォルダを開いた。
 そこには『食べ終えたラーメンどんぶり』『普通の照り焼きバーガー』『特に美味しそうなわけでもない生姜焼き定食』『バス停の時刻表』の四枚しか入っていなかった。時刻表以外はどれもピンボケしていたし、微妙に斜めに写っている。
「牧さん写真撮るのすげー下手なんだね……。まあイメージ通りだけど」
「今まで自分で撮ることなどそうなかったからな。あ、でもこれは少し上手くなっているだろう?」
 見せられた生姜焼き定食はピンボケが酷いどころか肉が半分見切れて写っている。もちろん皿も何もかも斜めだ。
「……どこが? インスタ映えどころかTwitterにもあげれねぇすよこれじゃあ。ちっとも美味そうに見えねー」
「言っただろ、可愛いものを撮っていると。よく見ろ」
 あまりの写真の下手さに驚いて、すっかりそんなことなど頭から抜け落ちていた。
 縦長写真の手前の皿に光が当たっているためそこしか見ていなかったが、よく見れば写真の上半分には薄暗い中で餃子を食ってる男が写っている。
「…………もしかしてこの、生姜焼きの皿の奥で餃子定食を食ってる奴って俺?」
「写真を撮ると飯を食う前に俺が言ったの覚えてないか? お前は『どーぞ』と承諾していた。だからこれは隠し撮りじゃない。他の二枚だってそうだ」
 ラーメンどんぶりの奥でチャーシューをかじろうとしている横顔の俺は、薄暗くて表情も見えにくければ額の半分ほど上は見切れている。ハンバーガーとアイスコーヒーの奥では大口を開けて海老カツバーガー食っている、半目のぶさいくな俺……。
 確かに『写真を撮る』といつも一言呟いてからスマホを出していたが、飯を撮っているふりをして俺を撮っていたとは全く気付かなかった。
 露光量不足で薄暗く写ってはいたが、それでも確かにピントだけは仙道に合っている。
「自然体のお前が一番可愛いから、それを狙って撮ったんだ。どうだ、可愛いだろ?」
 そろりとスマホから視線を上げれば、得意満面そうな彼と目が合った。
「……こんな半目で大口開けてるのが?」
「ああそれ、いいだろ。嬉しそうに頬張ろうとしてるのがとても可愛く撮れたんで一番気に入っている。しかし写真としてはやはり三枚目が上手く撮れた。ほら、髪の毛が全部入っている。耳は入ってないが、まあいいだろう」
「いいんだ……」
「それくらい、いいだろ? 俺はお前の耳より顔の方が好きなんだから。まあお前が残念に思うなら、もっと写真の腕を磨くとしよう」

 時刻表の写真の日付をみると二年前だった。
「牧さんもしかして、このスマホ買ったのって二年くらい前?」
「そうだ。どうしてわかった? あ、試しに撮った写真の日付か」
「もしかして写真撮ったのって本当に全部でこれだけ?」
「あぁ。自分では撮らなくても人からメールでもらうので十分足りている。自分で撮る必要性を今まで感じたことがなくてな」
 ふと牧が口をつぐんだので、仙道は話を促すように首を傾げる。
「……だがお前は撮ってみたくなったんだ。これからは沢山撮るうちに上手くなると思う。今はまだ下手ですまない」
 真面目な顔で謝られてしまい、仙道はくしゃりと顔をゆがめた。
「いーよ、下手だってなんだって。誰にも見せないってんなら、もういちいち俺に『写真撮る』って言わないで勝手に撮っていーから」
「いいのか? 以前お前は勝手に写真を撮られるのが嫌だとか言っていたじゃないか」
「うん。けど牧さんは特別。あんたを俺専属のカメラマンに今、任命したから。あ、俺も今一枚、あんたを撮っていいかな?」
「かまわんが、食い物がないぞ」
「なんで食い物がいるの?」
「インスタ映えとは食い物か動物と一緒に撮るもんなんだろ?」
 一拍ほど耐えたが仙道は吹きだして腹を抱えてしまった。誰かに吹き込まれた偏った知識を大真面目に信じてしまう、彼のこういうところも好きだ。
「いいんだ。俺も誰にも見せないから」
 牧さんが「そうか」と軽く首を傾げた瞬間を撮った。
 淡く微笑んだ表情がとても自然で、とびきり可愛い一枚になっている。
 牧は仙道のスマホを覗き込むと感心したように頷いた。
「こうして見ると男前だな」
 真顔で言うものだから思わず笑ってしまえば、「冗談だ。そんなに受けるな」と牧さんも一緒に笑った。

 牧さんほどじゃないけれど、俺も写真は撮らない方だ。
 けど今日からは俺も写真を撮り溜めていこうと、スマホの画面に収まっている男前なくせに可愛い人を見て決めた。







* end *







ちなみに牧はいつか写真が上手くなったらインスタにUPするつもりで撮ってました。
武藤に上手い写真はインスタにUPするのがカメラ機能使用条件とか嘘を吹き込まれて(笑)
でもこの後、仙道にインスタとは何かや、UPする必要性はない・むしろ顔出し危険など教えられ、
食べ物と撮ろうとか上手く撮れてもアプリを入れてUPせねばと思うことはなくなりました。めでたし×2v




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