Fusion of souls. vol.01のオマケ |
しばらく走り続けて到着したのは、実際に亡国の王子が昔に住んでいた、城としての規模は小さいが機能性に富んだ美しい城館─── 二人の邸宅だ。 人狼形態に変化したシンイチはアキラに預けていた衣類を身につけると、門扉の前に立って手をかざした。バキンッ!と、まるで見えない壁に激突し跳ね返されたかのように、跳ね橋が勢いよく下りてきて、その正面に位置する巨大な両開きの門扉が轟音をたてながら開かれていく。毎回この大仰な音がする跳ね橋や門扉の施錠解除を見るたびに、シンイチは大げさに感じてしまう。 吸血鬼は不死者の中でも最上級の能力を持つ種族だから、そうそう襲われることはない。逆に言えば小物が来ることは考えられず、襲いにくるとすれば相応の武力を備えた不死者の軍勢か、同族のどちらかだ。 実際にその後者を経験した城主の吸血鬼が、城主と伴侶が共に不在となる場合に、この厳重な施錠術をかけるのは尤もなことといえる。だから人狼は今回も大人しく門扉が開ききる数分を黙して待った。 主人たちを出迎えるべく、使い魔達がこぞって我先にと顔を出す。 「ただいま。留守番ご苦労。誰も来なかったか?」 使い魔の聞き取りにくい拙い発声でも身振り手振りがあるため、理解は容易い。 「そうか。ありがとう。礼は……あれ? ちょっと待ってくれ」 ポケットを探るシンイチから数歩前に出たアキラは使い魔たちへチョコボンボンを振りまいた。色とりどりの包み紙が宙に舞うと、飛び上がってキャッチしては喜びに跳ね回る。 「……何? たまたまだよ、持ち歩いてたのは」 使い魔という下々の好物を、自分は食べないのに持ち歩くような吸血鬼などアキラ以外いるだろうか。こういうところがまた可愛くてたまらないのだが、言えば意固地になってやめてしまいかねない。 照れ隠しでつくられた嫌そうな横顔へ、シンイチは微笑みのままに軽く口付けて囁いた。 「迎えに行った俺への褒美は?」 「もうポケットには何もないから、欲しいなら寝室であげるよ」 寝室にあるプレスドガラスのキャンディーポットを思い出し、それよりは酒のほうがと考えたところで腰に手が回され引き寄せられた。 高い鼻梁が触れ合うほどの距離から覗き込んでくる瞳の中では、夜空の中に赤いオーロラが煌めきはじめている。 そのゆらめく妖しい色彩に魅せられて動けない人狼の耳へ、艶気を含んだ低い囁きが吹き込まれる。 「……あんたの気が済むまでね」 思わず喉を鳴らした人狼の背を紫色の爪先が滑り、双丘の間の上で止まった。そしてじわりと押しては擦ってくる。早く尻尾を出せ、その付け根を毒のでない牙で噛んでやると言わんばかりの露骨な愛撫だ。主人たちのそんな特殊で淫らな行為を使い魔たちは知る由もないのに、シンイチの首筋に汗が浮く。 「今夜は満月じゃないぞ……」 「いいじゃんたまには。あんたは俺を迎えに来たご褒美を。俺は面倒をすませたご褒美を存分に味わおうよ。さ、ギャラリーがいると気が散るから、早く行こ?」 至近距離で甘く整った美貌に誘われてしまえば、断る理由を探す気も失せる。 ─── ああ、また見蕩れさせられちまった。お前は昔と変わらぬ微笑みで俺を永遠に魅了し続ける魔物のようだ。あえて言うならお前の能力なんかより、俺はこの微笑みこそが恐ろしいよ。 まだ腰を抱いたままの冷たい指に人狼は己の熱い指を絡めて、返事のかわりに強く握りしめた。 *end*
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二人とも見かけは若いけど年寄なんで、吸血は一ヶ月に一回で十分なんですv
この部分は01の続きで書いていたけど、あまりいい区切りにならないのでカットしたの。 だけどこんなに書いたのに〜ともったいなくなってオマケとしてUPしちゃいました。 ※背景素材はNEO HIMEISM様からお借りしてリピート用に描き足し加工しました。
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