Surely goes well. vol.08



久しぶりに午前練習のない土曜が重なった朝。時間があるから火を使った朝食をわざわざ作ってみた。
仙道は自己満足で機嫌よく階段下へ行って朝食が出来たことをつげた。けれどいつもの嬉しそうな『おー』や『サンキュー』などがいつまでたっても聞こえてこない。下りて来る気配すらも。
この時間まで、しかも呼んでも気付かず寝ているとは珍しいこともあるものだと、仙道は牧の部屋をノックしてから入った。
「おはよーございます〜。飯、出来たけど。まだ寝る?」
「……起きる」
緩慢な動作で上半身を起こした牧は動きを止めると、「やっぱもう少し寝る。すまんが先に食ってくれ」と再び横になった。
牧がこんなに天気が良いのに早朝サーフィンに行かないのは波がないからかとばかり思っていた仙道は目を瞠った。
「牧さん、声変だよ。なんかすげー疲れてるっぽいし……まさか風邪ひいた?」
「……喉が痛くてだるいだけだ」
「それを風邪っていうんだよ。……今日の午後練、休めないんすか」
「風邪くらいで…ゲホッ、ゴッフォッゴホッ」
「あぁあぁ、いーよもう喋らなくて。水持ってくるね」
「すまん」

手渡された水をしかめっ面で飲んでいるところをみると水すら染みるらしい。
「ちょい、失礼」
湿った前髪を指でかきわけて、掌を額へ押し当て熱を計る。
「……あると思う。今、飯作ってくるからちょっと待ってて。それ食ったら薬ね」
「コホッゲホッ……つ、作る?」
先ほど朝食が出来たと言っていたのに何故、と言いたいのだろう。
「うん。今の喉でトーストはキツイでしょ。いいから、喋んないで寝て待ってて」
そっと肩を押してベッドへ寝かせる。パジャマがわりの長袖Tシャツの上からも熱が伝わってきた。大人しく頷いてだるそうに瞼を閉じるのを見届けてから、仙道は早足で階段を下りた。

ベッドに腰掛けて卵がゆをゆっくり口に運びつつ、何度も咳をする姿はどう見ても風邪ひきの病人だった。
先週の末くらいからだろうか、彼がのど飴を食べているのを何度か目にした。そのまま練習試合を迎えたり、ゼミの発表会など多忙が重なり、ずっと気を張ったままだったはず。それらがひと段落して、一気に気が緩みどっと疲れが出たところでウィルスを抑えきれなくなったのだ。
いくら調子が悪いのを隠すのが上手い人だからといって、一緒に暮らしていながら今頃気付いた自分の呑気さを仙道は呪いたくなった。
「もう薬飲む? ……はい。あ、それは蜂蜜を少しといたやつだから」
「蜂蜜?」
そんなものは家になかったのではという牧の顔に頷く。
「昨日、たまたまもらった100%純蜂蜜の飴をお湯で溶かしてみたんだ。蜂蜜は喉にいいってきいたから」
講堂で女子数人が話していた横を通りがかった時、牧さんがフルーツのど飴をなめていたことを思い出して、俺にも一個ちょうだい、と言ったら気前よく袋ごとくれたのだ。
牧がマグカップを口にした。薬を飲む時よりも穏やかな様子で喉を上下しているように感じる。
「……飲みやすい。少し楽だ」
「それは良かった。飴、沢山あるから舐める?」
「寝る」
「そう…」
汗で湿っている髪を指先ですくと、シャンプーの香りだけではない、汗が含まれ深みを増したとても好きな香りがした。もっと嗅ぎたくて鼻先を髪に突っ込む。熱い肩を引き寄せ胸いっぱいに吸い込むと、うっとりした気持ちとは裏腹に下腹部に妙な熱までこもってくる感じが……?
「寝る、から」
邪険にするのもだるいのだろう、動かない牧に静かに言われて仙道は慌てて離れた。
「ご、ごめん。何かあったら呼んで。声出なかったら携帯鳴らして。ここに携帯置いとくから」
先ほどのおかしな行為を気にした様子もなく、牧はこくりと頷いて横になり瞼を伏せた。

一人で冷めきった朝食をもそもそと食べながら、仙道の心臓はやけに落ち着かなかった。
風邪で弱ってしまった彼が熱で潤んだ瞳をむけてくる。少し苦しそうな呼吸、熱で赤みを強くした唇、促されるままに体を預けてくる仕草。そしてなにより、あの下腹部にくる香り……。
寝起きというのは誰しもが寝汗などで体臭は濃く香る。日本人は体臭が薄い人が多いというが、それでも朝はいくらか濃いものだろう。まして今朝の彼は熱を出しており布団の中で寝汗がこもって当然で───
そこまで考えた時、またしても下腹部が重みを増してしまった。
俺は、あの香りをよく知っている。一緒に暮らしていてもああいった香りを嗅げるほど密着する機会などなかったはずなのに。柔らかな髪に鼻面を突っ込み深く吸いこんで香りを胸いっぱいに広げるとムラムラきて、その時の彼の体調すら一瞬頭から抜け落ちていた。
「怖ぇ〜……ああいうのをフェロモンっていうのかなぁ」
男のフェロモンが男にも効いたりするのだろうかと頬付えをついてぼんやりと考える。
そして考えれば考えるほど、なかなか収まりそうになくなってしまったコレをこのままトイレで処理してしまっていいものかどうなのかも。


「風邪くらいで」を咳と交互に繰り返した牧だったが、結局「集中力散漫で練習してつまんない怪我をしたり、悪化して周囲にも風邪菌ばらまくのと、一日集中して治しきるのと。選ぶのはあんたです」との仙道の言に折れた牧は午後練習を休む連絡を入れた。
「よしよし、偉い偉い。ご褒美に昼飯は鶏雑炊作ってあげますよ」
「ん」
平常時ならば確実に飛んでくるはずの『誰にガキ扱いしてんだ、バーカ』が来ないのは淋しかったが、続く「鶏雑炊…」と少し嬉しそうな口元をしっかり目撃してしまった。これで張り切らないわけがない。
「美味いの作るから、ちょっと材料買ってきます。牧さんは寝てて下さいね」と仙道は急いで出かけた。

市販の鶏雑炊のもとを使って味付けてはいるが、鶏と卵と椎茸も買い足して作った。具材から良い出汁が出たのか、「美味い」「凄い」といつも通り呟きながらゆっくり食べている。その様子が仙道の目をとろけそうに優しくさせる。
「俺の愛情、伝わる?」
「ん」
照れ隠しでふざけた調子で言ったのに素直に返されてしまい、仙道は顔が赤らむ自分を自覚する。まだ潤んだままの瞳を牧がむけてきたため、熱のせいだとわかっているのにますます頬が熱くなる。
「……うつったか?」
「ち、違う。風邪なんてうつってません。ちょっと雑炊熱くて舌やけどしただけ」
そうか、というように軽く頷くとまた何事もなかったように牧が食べだしたのでホッとした。
食欲もあるし水分もしっかりとって汗をかいている。咳も収まっているしもともと体力はある。この分だと夜には本当に大分治るかもしれない。などと真面目なことを考えることで平常心を呼び戻す。
「あ。牧さん食い終わったんなら着替えたらいいよ。その前に体拭いてあげる」
「体は、いい」
「せっかく蒸しタオル用意したのになー。じゃさ、首だけでも。汗でチクチクしたらぐっすり眠れないから」
薬を飲み終えた牧を少し強引に引き寄せると、レンジで熱く蒸したタオルで首を拭いてやった。気持ちいいのか自分から頭をそらせてくれたので、後頭部を左手で支えながら喉・首の後ろ・耳の裏まで優しく念入りに拭いていく。
「……顔は自分でやる」
頬にタオルを寄せた時に呟かれて仙道は激しく動揺した。
「う、うん。いいよ、もう着替えて。タオル洗ってもう一回レンチンしてくる、冷めちゃったから」
飛び退くようにベッドから離れ部屋を出た。掌にはまだ牧の頭部の重みと湿り気が残っている。
─── なんだかわかんないけど、やばいやばいやばいやばい! 俺がやばい!!
ぎゅっと握っていたタオルを顔にあてると、またあの香りがほのかにして、ますます仙道の全身の血行を高めてゆく。牧さんが頭の力を抜いて俺の手にゆだねてくれた時、俺はどこでなにをどう感じていた? もしあの時、自分でやると言われなかったら、俺はあのまま……?
─── バカか! やばいやばいやばい?おさまれ俺!!
またしても重たくなってしまった下腹部に焦りを覚えながらも仙道は気を付けて階段を下りて台所へ走った。


*  *  *  *  *


午後練の後に一週間分の買い出しもすませたため帰宅が遅くなったが、牧はまだ眠っていた。呼吸も唇の赤みも落ち着いており、回復しているのが寝ていてもわかった。
乾いている少し肉厚な唇に指先で触れる。
─── 柔らかい。可愛い…つか……すげーエロくね?
「どこで熱計ってんだ」
瞼がパチリと開いて突然尋ねられ、仙道は指を急いで引っ込めた。
「ヒ!? ひや、いやいや、あの、起きてたんだ?」
「今起きた。おかえり。熱も下がったし、喉も朝よりかなりいいよ」
起き上った牧は寝過ぎて体が痛いといいながら伸びをした。
「声、まだ掠れてはいるけど大分戻って良かったね。んじゃ俺、晩飯作ってくるから」
「仙道」
「はいぃ?」
妙な後ろめたさで声が少し高くなってしまって更に焦る。流石に訝しく思われたかと思わず背筋を正したが、牧はそばによってくるとスーパーの袋を覗き込んできた。
「買い出し一人でさせてすまなかったな。……うどん?」
「今夜は鍋焼きうどんにしようと思って。俺はそれだけじゃ足んねーから惣菜の揚げ餃子も。牧さんも揚げ餃子、食いたかった?」
ゆるく首を振ったあと、牧はまだ少し潤んでいる目で見上げてきて微笑んだ。
「気を遣わせてすまんな。……お前のおかげで一日で治せそうだ。今度お礼に飯でも奢る」
掠れた声の中に純粋な感謝が深く刻み込まれていて、衝動的にこみ上げた強い気持ち─── 抱きしめたいという欲求に仙道は抗えなかった。
「そんなんいーから……」
また汗をかいてしけってしまった体を腕の中におさめて胸に抱き寄せる。
頬に牧の柔らかな髪の毛が触れる。意図的に鼻先を髪に突っ込んで思い切り吸い込む。練習で疲れた体に染みわたる、どんな香水や果物、花々でさえも叶わない特別な芳香に酔いしれる。
牧が逃げようとすることもなく大人しく腕に納まっていることに疑問を感じる理性すら飛んでいた。

下腹部は疲れもあって反応が異様に早かったけれど、彼にそこが触れなければバレないとふんで、いいように嗅ぎまくる。腕に心地よいしっかりした骨格と筋肉を感じる。同性なのに何故か不思議と腕になじむ身体を強く抱きしめる。
いよいよ恍惚となってきた頃、掠れた声に訊かれた。
「……お前、寝起きか?」
「今帰ってきたばっかですけど……なんで?」
「…………匂い嗅いでるから」
ザッと血の気が下りて仙道は牧から腕をほどき数歩後ずさった。
─── ばっ、ばれてた……!! 男を抱きしめるだけでも不審なのに、人の頭の匂いまで嗅ぐ変態と思われてしまった!!
完勃ちの前はショックで一気に萎えたが、用心としてバッグで股間を咄嗟に隠す。
「仙道?」
「と……突然変なことして……すみません……」
「? 顔色悪いぞ、大丈夫か?」
「ごめんなさい……すみません……すみません」
嫌われる恐怖に膝がわらい、バッグを抱えたまましゃがみこんで縮こまる。
「どうした、何をそんなに謝ってるんだ?」
隣にしゃがみこんで顔を覗かれそうになり、バッグへ顔を埋める。
「嗅いで……ごめんなさい」
「何を今更、初めて嗅いだみたいなことを」
ケロリと言われて仙道は驚きに引きつった顔をあげた。
「今朝も! …今朝も、すみませんでした」
「今朝? 今朝は知らんが、お前、本当に覚えてないんだな…」
今朝以外に牧の髪へ鼻を突っ込んだことなどないし、香りで昂ぶったことなどないはずなのにと仙道は更に青ざめた。
「朝に洗面所で合うとけっこうな割合でお前、俺の首の後ろや頭に鼻をぐりぐり押し付けて深呼吸してるじゃないか」
明け方によく見る幸せな夢だと思っていたことを指摘され、現実でやらかしていたことだと知って体が震えだす。それでもまだ信じ切れずに、自分しか知らないはずの夢の出来事を詳細に口に出してみる。
「俺……俺、洗面所であんたを背後から……髪の毛わしゃわしゃしてぎゅってして……匂い嗅いで、た?」
「『いいにおい〜』だの『ぼさぼさ頭かわいい〜』だの寝ぼけ声でバカなこと言いながら、な」
「そ、そこまで全部行動に……声にも……。現実だったんだ、あれ全部……」
酒に酔って失態をやらかすという話はよく聞くが、寝ぼけでこんなことがありうるのだろうか。自分はひょっとしたらとんでもない病気もちなのではないかと青くなるやら赤くなるやら。とにかくこのまま地中深く埋まって爆発消失してしまいたかった。
「鍋焼きうどん」
「……?」
「食わせてくれるんだろ。腹が減った。手伝うから飯にしようぜ」
言われて漸く、牧がまだ病人であることを思い出し慌てて立ち上がる。
「や、手伝わなくていーすから。ごめん、ただでさえ遅くなったのに。今作ります」
「ん。宜しく」
逃げるように廊下へ出た仙道の背に、まだ掠れが残る牧の声が触れた。
「嗅がれたって今更別に気にしないから、お前も気にするな。それより卵は半熟で頼む」
仙道はぎゅっと拳を握ると、泣き笑いのような複雑な表情のまま腹から声を出した。
「半熟卵、あんた二個、俺一個! 惣菜の海老天もあんたにあげますよ!」
くっそ〜めちゃくちゃ美味いの作ってやる!と続けて叫びながら、仙道は走るように階段を下りた。


薬を飲み終えた牧はフーッと大きく息を吐いた。
「……あなどれん」
「何が?」
「鍋焼きうどんがこんなに美味いものだったとは……」
首の汗をタオルで拭きながらあまりにしみじみと言うので仙道は肩を震わせて笑った。
つい先ほどまで地中で爆発したいたいほど羞恥で落ち込んでいたのに。無意識だろう牧の言動に、いつもこうして救われてはひっそりと感謝をしている。
仙道は拭き終えたタオルをもらって洗濯機へ放り込むと、再び食卓の椅子に腰かけた。
「部屋、探してんのか」
唐突な話題変更と触れられたくない話を突き付けられ、仙道は頬をこわばらせた。
「……なかなか空きがなくて。あってもすげー高くて」
「探さなくてもいいだろ」
「え」
「この家は俺が卒業するまで借りる約束をしている。それまではお前もここに、一緒に住めばいい」
「マジすか」
頷かれたが、もう一度仙道は聞かずにいられなかった。
「本当に、俺はここに暮らしていいんですか」
「ボロ屋で交通の便も悪いが、お前も慣れただろ?」
仙道のテーブルの上の握り拳が僅かに震える。
「……あ、あんたに彼女ができるまでの間はここで暮らせるんだ、俺」
「俺の卒業までお前は確実に家探ししなくていいってことになるな、その理由だと」
「そんなんわかんないじゃん。あんた、モテんのに」
「お前に言われたかねーよ。お前の方こそ、彼女出来たから同棲するって突然この家を出そうだぞ」
まぁ、止めないけどな……と続けた牧の手首を仙道は静かに、だが強く掴んだ。
「ない。それはないっす」
牧は仙道の手と捉えられた己の手首を交互に見たのち、首を傾げた。
「……お前、もう酷く眠いのか?」
「嬉しくて、眠気なんて感じる暇なんてないっすけど?」
困った顔をされてしまい、仙道は苦笑を零した。
「あんたさっき言ってたよね。俺の奇行は気にしないって」
「それが?」
「二年と半年ちょい……奇行もやらかす不束者ですが、宜しくお願いします」
「あ、こちらこそ」
仙道の深々とした礼に牧までつられて礼をする。牧の手首を離した仙道の手は牧の下げられた頭に移動した。
「柔らかい、ふさふさだ〜。ずっと触ってみたいと思ってたんだ」
「今までも散々触ってきただろ。調子にのんなバカ」
手を振り払われ、「今までのは夢みたいなもんだから、カウントなし!」と笑って仙道は席を立った。
牧は溜息を吐き「……まだ頭がうまく回らんから、もう寝る」と仙道の相手をせずに洗面所へ向かった。

*  *  *  *  *

奈落から天国へ。ジェットコースターのような一時間だった。仙道は布団に横たわり腕枕をしながら天井を見上げて、今日を振り返り深い吐息を吐いた。
寝ぼけているととんでもないほど自分の欲求に正直な行動に出てしまうという奇行癖があるだなんて。これが牧以外の人に言われたのであれば一笑に付すくらい、信じ難く残念なことだった。昔から寝不足の翌朝は機嫌が悪くて手におえないと親に言われてはきたが、甘えもするだなんて全く言われたことなどなかったから知らなかった。通りで彼の体温や香りや髪の毛の感触などを知っているようなデジャブーを感じていたわけだ。実際に体感しているのだから当たり前だ。……なんてもったいないことをと、そこだけ今更ながら悔やまれる。

しかし、だ。そんな己の奇行癖さえも些末に思えてしまうほどの衝撃は、だ。……ついさっき気付いたんだけど……改めて落ち着いて考えようとすると心臓がバックンバックンいいはじめて体が汗ばんでくるんだけどっ。
その奇行を牧さんは容認していたってことは……。ただの仲間うちでのふざけたスキンシップですまされる域を超えたものを何度も容認してきて、これからだってやらかしても気にしないってことはだよ。
……考えられるのは、牧さんは俺のことが好きってことだろ。それしか考えられないだろ!?
(うわっ、うわっ、いつから? 俺のどこに? なんで? うわ─── !!!)
理由や経緯はわからないけれど、とにかく嬉しい。こんなに嬉しいことがあるなんてってくらいで、今すぐ布団から飛び出して走り出したくなる。牧さんが。あの牧さんが。牧さんが俺を!!

やはりいてもたってもいられなくて布団をはねのけ、布団の上で腹筋をはじめてしまう。
腹筋で足りなくなって腕立て伏せをはじめていると、血流が更に良くなって喜びが全身に駆け巡っている気になる。
こんなに嬉し過ぎるのは……なんとなく気付いていたけれど、俺も牧さんが好きだってことだ。言葉にできない未知の高揚感で弾け飛んでしまいそうだ。嬉しい、嬉しい、すげー嬉しい、今日から牧さんと俺は晴れて恋人同士!!
(今日から恋人同士……? え。そうなの? いや……なんか違わくね?)
ふいに引っかかって腕が止まる。
あんな変な行動をとられておいて、俺に一度も言ってこなかったのは……黙っていたってのは不自然じゃね? 普通、好きであろうと驚いて言うはずだろう。言わなかったのは牧さんの中で納得できる何かがあったのだ。
納得できる何かったら……あれだろ。俺からの告白しかねーだろ。好きですとかなんとか寝ぼけている俺が言ったから、牧さんは納得したに違いない。だから俺がわかってなかっただけで、実はもう既に恋人同士だったんだ俺達……。
(つか、告ったのを覚えてないってヤバくね?)
もしかしたらその時に牧さんも返事をくれていたかもしれない。それを覚えてないのも恋人として致命傷じゃん…? それがバレて、こんな不誠実な男とはやっぱり付き合わん、とか言われたらどうすんだよ俺……。

必死になって思い出そうとしたが、全く何も。欠片もそれっぽいことは思い出せなかった。
布団に突っ伏した体が不安で急激に熱を失っていく。どうしよう、どうすんだ、どうしたらいいんだろう……。
冷えた体と頭でぐるぐる考えていくうちに、もう一つの可能性に俺は気付いてしまった。
牧さんはスキンシップがもともととても好きなタイプで、実はけっこうああいったことは日常茶飯事だから気にならないだけとか……。や、それにしたって好意があるから許せているはずだ。
でもそうだとしたら……まだどっちも告白してなくて、付き合ってはまだいないのかも?
「……わかんねぇ。どんだけ考えても全部俺の憶測だもんよ……」
口にしてみると判断材料の乏しさに思い至る。
とりあえず寝不足は避けよう、自分だけがぼんやりとしか記憶がないままなんてもったいなさ過ぎるしかなり危険だ。寝不足厳禁・寝不足にならないためのスケジュール管理を心がけよう、と己に誓う。
先ほど牧の髪に触れた掌をじっと見る。
「……せっかく慣れてはいてくれてるんだし」
試してみるしかない。その反応で判断しよう……。

仙道は神妙な面持ちで布団をなおすと、寝不足回避のために布団に入った。



王道の風邪看病ネタは書いてて楽しいなあ♪ 市販の天麩羅一個か天かすを最初から鍋に入れて煮込んで
タレがほとんどなくなっちゃうほどの味がしみた鍋焼きうどんが私は好き。特に平うどんで!

 



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