CHRISTMAS


25日。今日はクリスマスだというのに俺は何をしているんだ…。

ソファに横たわり、何をするでもなく天井をぼんやり見つめながら仙道はぼそりと呟いた。
今までもクリスマスを一緒に過ごしてきたけれど、こうして「二人の家」という場所を得てからは初めてだから、やはり少しは気取ったこともしたいなと思うのは自然ではないか?
先程から堂々巡りで同じようなことをぐるぐる考えている仙道はまた同じシーンを思い出す。


煌びやかなイルミネーション輝く遊歩道。周囲に立ち並ぶデパートはどれもクリスマス一色に染められている。
にぎやかな人ごみの中を仕事帰りの牧と仙道は買い物をするのを後回しに、少し歩くことにした。
『ここまで華やかだといっそ無理やりでも笑顔になれそうで良いかもな』
と、牧は少しあきれつつ笑いながら言った。
『仕事の疲れも笑って飛ばせそうですね。でも本当に見事だなぁ…クリスマス、もうすぐですからね?』
色とりどりの電飾が黒い夜空に映える様をにこやかに見つつ応えた仙道に、申し訳なさそうに牧は
『…今年のクリスマスなんだが…俺、出張入ったんだ…』仙道の方を見ないようにして呟いた。


いきなりな出張にガッカリした仙道は他の人に代わってもらうことはできないのかと尋ねてもみた。
すると牧は重い口調でコトの経過を説明してくれた。本来は瀬野さんが行くはずだったが、昨日からインフルエンザにかかってしまいどうやら24日までには治りそうにないということ。他の人が代わりにとなったが、牧のいる課では独身は瀬野と牧しかしかいなく、家族サービスという言葉に負けて…牧となったということ。

『子供の頃にしか感じられない喜びってあるだろ。そういうの、大事にするのが大人の役目じゃないか。』
『大体、クリスマスなんてキリスト教以外は女子供の喜ぶイベントっていう意味しかないって』
などと落ち込む俺に牧さんは開き直ったのかあっけらかーんと口にしてその話題を打ち切ったのだった…。


「牧さんのオヤジーっ!!! クリスマスはなぁ、恋人たちのモンって言われてるの知らねーのかよーっ」
思い出しては悔しいやらごもっともやらで複雑な心境に陥る仙道は思わずソファから起き上がり叫んでみる。
もちろん牧本人には口が裂けても言えないけれど。可愛さ余って憎さ百倍…切ねぇなぁ…。

起き上がってみると腹が減っていることに気づく。オーディオの上の時計をみると夜の9時20分をさしていた。
『仕事が終わったら電話いれるから』と言っていた牧の言葉を思い出す。きっと今頃は懇親会で飲んでいることだろう。
そんなことを思っていてふと視線をずらした先に牧のシステム手帳が目に入った。

あまり持ち歩かないその手帳に牧は夜、いつも何か予定ができると書き込んでいる。一度、マメに書き込んでも
持ち歩かないなら意味がないのではと尋ねたとき『書く事で覚えるからいいんだ』と照れくさそうに笑った。
皮のしっかりした作りのシステム手帳。そういえば先日デパートに行ったのはそのリフィルを買いに行ったんだった…。
パラパラと罪悪感もなく手帳を開く。牧らしく読みやすい字で書かれているページをぼんやりと目で手繰る。

12月25日、今日の日付の欄で仙道は手を止めた。
仙道の好きなステーキ屋の名前と電話番号(多分そこの店の)が書かれてあり、その上を二重棒線で消してある。下に今日の宿泊先のホテルの名前が牧さんらしからぬ乱雑な字で書かれていた。


「まいったなぁ…」
誰もいない部屋なので隠す必要もなく仙道は満面をデレデレ顔にして呟いた。
安くて量が多いその店はいつも混雑しているから予約が必要で。しかもクリスマスなら混む事は当然で。
きっとかなり前から気にしていてくれたのであろうことは想像に難くない。ひょっとしたらもう予約をしていたのに
キャンセルをしたのかもしれない。

「だーれが“女子供のイベント”だって?」
歌うように一言いうと、すぐに仙道はコートを羽織って家の鍵を握る。牧ももちろん同じ鍵を持っている。
その鍵を目の前にかざしながら
「可愛い人のために、明日は美味しいものでも作って待っててあげましょうかね」


牧が『吉野家よりお前の作る邪道な牛丼が好きだ』と言ってくれた俺のスペシャル牛丼。異様なまでに煮込んで形も分からなくなった玉ねぎとすき焼きのタレと焼肉のタレをブレンドして仕上げる牛丼。
ステーキはやっぱ店で食うのが一番美味いけど、これなら牧さんだって一発喜ぶこと請け合いだ♪

クリスマスなんてこれからだって何度もイヤになるほど来る。そんなことより俺とのクリスマスを楽しみにしていて
くれたってコト。これが重要であり、俺をこんなにHAPPYにさせるんだ。
帰ってきたら一番に言おう。多分帰りは10時くらいだろうから「ご苦労様。牛丼できてるよ」って。
きっと腹減らして帰ってくるからこれが一番嬉しいはず。


ご機嫌で寒い星空の下、白い息を吐きながら仙道は夜遅くまで開いているちょっと遠いスーパーへと歩いていく。寒くはなかった。心に牧の笑顔があったから。



まだストーブのぬくもりが残る主のいない暗い室内。テーブルの上に忘れていった仙道の携帯が光り、着メロが流れ留守録に切り替わる。
「仙道?なんだ、いないのか? 明日の会議、中止になったから、俺これから夜行に乗って帰る。
 12時には着けないかもしれないけど、土産買ったからさ。遅くで悪いが…クリスマス、しよう。
 じゃあ、着いたらまた電話いれる」




Merry merry Christmas, youths !!





お土産はきっと飲み屋街で夜遅くまでやってるケーキ屋のケーキでしょう(笑)