これだけは無理
|
||||||||||
|
作者:翡翠さん |
|
||||||||
|
||||||||||
茶色く長さは10cmもない、うねうねと動く生き物── その生き物、毛虫が海南大附属高校籠球部の部室に現れた。開いていた窓から入ってきたらしく「あーっ!毛虫!」という清田の大声でその招かれざる客、いや虫の存在が知らされた。 「け、け、けむ毛虫………」 「ま、牧さん!?どうしたんっすか?」 牧が顔色をなくして普段では考えられない弱々しい声で呟いた。更に清田の肩に両の手をついて小さく震え出してしまう。 「どーした?毛虫入ったのか?うわっ牧、清田にしがみついて何してんだよ?鳥肌も立ってるぞ」 「無理……これだけは無理だ……」 「えっ!牧さん毛虫苦手なんすか!なんかカワイイvvあれ?なんか怒られねーし…ガチで嫌なんだ」 清田に後ろから抱きつくような格好のまま、牧は手に汗をじっとりかいてまだ震えていた。からかったつもりの武藤、清田も冗談抜きで苦手だということを察してそれ以上は控える。 「みんな、入り口で立ち止まってどうしたんだ」 「宇宙人でもいました?」 高砂と神も異様な光景を不思議に思うも一体何が起きているのか察しがつかず二人して首を傾げる。すると宮益が「あれ、どこから入ってきたんだろう?毛虫がいる」また『毛虫』という単語を聞いた牧の顔色はいっそう青ざめた。 「牧さん、もしかして毛虫苦手ですか?」 神に図星をつかれ、遠い目でため息混じりに牧は語る。 「ああ……だって…あいつら刺すだろ………小さいころ刺されてひどい目に遭ってからすっかりダメになった……」 「なるほど。トラウマがあるんだね。よーし、僕が退治するからちょっと待ってて。誰か割り箸みたいな何か挟めるもの持ってない?」 毛虫を退治するという宮益に皆が驚き、牧は「頼む〜」と冴えない顔で頭を下げる。 「あ、俺割り箸持ってる。弁当の箸忘れた時のために予備あるんだ」 「へー武藤さん意外に用意いいっすね!……いてぇ!突然叩かないでくださいよー!」 「意外には余計だ!」 案外用意のいい武藤に清田が突っ込んでお決まりのように反撃をくらう。牧は微動だにせずにまだ同じ格好で宮益の毛虫退治を待っていた。 「宮、頼むぞ…見えないところに捨ててこいよ」 「分かった、早く片づけるからね。よし、挟めた!急いで外に出してくる!牧の目に触れないように通り道から外れたところへ置いてくるから」 宮益によって無事に片された毛虫。それは意外で誰もが驚いた行動だったが、牧は心から感謝し、 帰りにおしゃれなカフェでケーキをごちそうしたほどだった。 それから不意に出没した毛虫は牧の目に触れないうちに退治され、彼の選手プロフィールの苦手なものの項目には必ず『毛虫』と記載されるようになったという…… * end * |
||||||||||
☆…………☆…………☆…………☆…………☆…………☆…………☆…………☆
|
||||||||||
dislike |
||||||||||
ドラッグストアの出入口にいくつか置いてあるガチャガチャが日用品を買いに来た仙道の目に止まる。中には蜘蛛やムカデ、毛虫やダンゴ虫という妙にリアルで薄気味も悪いものがあり、小さいころにこんなおもちゃでイタズラしたこともあったなあと懐かしくなってつい小銭を入れ、レバーを回した。カプセルの中から出てきたのは毛虫のおもちゃでフサフサ具合などパッと見た感じ本物と見間違うような精巧な出来だった。これを使って一緒に暮らしている恋人の牧をちょっと驚かせてみようかと仙道はワクワクしている。 家に戻った仙道が牧のスリッパの上に毛虫のおもちゃを置いた。彼はどんな反応をするのだろう?呆れたように笑うのか、それともちょっと天然なところもあるのでなんだこれは?なんてきょとんとするのか?まあ二択のうちのどちらかだろうとは考えられるが違う反応をする牧も捨てがたい。あれやこれやと仙道の想像は膨むばかりだ。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 「ひいっ!!!」 帰宅してスリッパを履こうとした牧が聞いたこともないような悲鳴をあげた。そして、足元に荷物も落として「来るな!来るなよ!!俺を刺しても不味いぞ……」と毛虫のおもちゃに半分裏返った声で話しかけているではないか。予想とは違う牧の反応に出迎えた仙道も困惑気味である。あんなにひきつった弱々しい恋人の顔など見たことがなく、早くおもちゃだと言って安心させた方がいいだろうと仙道は考えた。 「ごめんね牧さん、これ、おもちゃです。さっきドラッグストアへ買い物に行ってガチャガチャで当てたんだ。だから刺さないよ、大丈夫」 「おもちゃ、なのか……ああ…良かった。変な汗をかいてしまった」 大きなため息をついて苦笑いを浮かべる牧を抱きしめ、仙道は思わず恋人の頭をよしよし撫でていた。牧もされるがまま、心から安心したような顔で仙道に甘える。びっくりして不快な思いをしたがその後の甘いとろけるような至福のひとときは最高で仙道の方もまたそれは同じだった。 「さて、夕飯は何か旨いものでも食べに行きますか!びっくりさせたお詫びに何かご馳走させて。今日は俺が運転手して、牧さんが助手席で。今夜は王様になっちゃってください!」 「いいのか?旨いもの……ああ、この前行った鎌倉山のイタリアンにまた行きたい。あそこのペスカトーレは絶品だったな」 「オーケー!あの店旨かったから俺もまた行きたいと思ってたとこだったんだ。ペスカトーレ、いいっすね!さあ、行こーか、牧さん」 好み、苦手はあれど──そんなところも可愛らしく思えるし、益々好きになってしまいそう!と仙道は牧を愛しく想う。牧もまた、仙道になら弱みを見せられるしたまには甘えて守ってもらうか……そんな気持ちを胸に秘めてご機嫌でハンドルを握る仙道の横顔を見ながら彼への想いを深めたのだった。 * end * |
||||||||||
|
||||||||||
クリスマスプレゼントで頂きました、しかも連作!豪華! 例え帝王であっても苦手はありますよね。
部活仲間にも恋人にも牧が大事にされていて、可愛くほっこりなお話をありがとうございましたv |