寝 室
作者:ねこやまさん



「ほら、口開けて。」

目の前に突き出されたそれに、仙道は息を呑む。
何度か経験したその辛さは、思い出すだけで仙道を尻込みさせてしまう。

素直に従わない仙道に、牧は無理やり口に入れてやろうかと思ったが、後々トラウマになっても可哀想だと、思い留まった。

「全部、飲まなきゃ駄目ですか?」

少しだろうが全部だろうが一緒だろう、と牧は思うのだが…。

「そうしてくれると、俺は嬉しい。」

静かに見つめる牧に、仙道は覚悟を決める。
目を閉じ、少し顔を上げ、口を開いた。


牧の左手に頭を支えられ全てを流し込まれると、仙道はシーツを握りしめた。

口の中いっぱいに広がるその味は、想像以上に仙道を苦しめる。
我慢して一気に飲んでしまえば済むことだと、頭では分かっている。けれど、飲み込むどころか唾が出てきて、さらに量が増えてしまう。

耐えきれず、近くにあったティッシュペーパーを大量に引っ張り出すと、仙道はそこに全てを吐き出した。


恐る恐る牧を窺う。

薄らと目元を赤く染めた仙道に、牧は視線を合わせることなく、黙って部屋を出て行った。
後を追おうと立ち上がりかけたが、仙道の身体はどうしても言うことをきいてはくれなかった。


くそ…っ。

仙道は強く目を閉じ歯噛みした。

世間では何の抵抗もなく、平気で飲む人もいるという。
悔しくて、情けなくて、こんな自分に腹が立つ。

牧は急かすことも、無理強いすることも、決してしなかった。
けれど、望んでいた。

それなのに、オレは…。


「………ま…きさん………ま、きさん……」

噛んでいた唇を開き牧を呼ぶ。消え入りそうな声は次第に大きく、叫び声に変わっていく。

「まきさん…牧さん、牧さんっっ!!」

仙道の悲痛な叫びが聞こえたのか、ドアが開き牧が戻ってきた。


牧は、ベッドへ近付き、仙道を見下ろす。
潤んだ瞳で、不安げに見上げる仙道の頬に両手を添えると、牧はその唇にそっと口づけた。


…っ!?


口の中に少しだけ流し込まれたその味に、仙道は目を見開く。

牧と目が合った。
仙道の身体が強張る。

だが、牧はさらに流し込んでくる。ゆっくりと、少しずつ。
仙道は、ぎゅっと目を閉じた。

今、牧も自分と同じ、この味を感じている。共有してくれている。

仙道の胸が熱くなる。

もう躊躇してたまるかっ!

仙道は牧の頭に腕を回し、自ら牧の唇を貪った。


ごくり、と最後の一滴まで全てを飲み干すと、仙道の身体からガックリと力が抜けた。
牧は包み込むように仙道を抱き締め、その身体を支えた。

「頑張ったな。」
「牧さん、ありがとう。でも、やっぱり粉薬は苦手だよ。だから、ね?次も、」
「ああ。わかってる。おまえの風邪が治るまで、何度でも。さあ、ゆっくり休め。」

仙道をやさしくベッドに横たえると、牧はそっと布団を掛けてやった。








やはり粉薬を処方してもらって正解だったな( ̄ー ̄)


end










私は最初、「ギャアアア?! 牧が自分で出したのを口に含んで仙道に口うつして飲ませた??」
と、ガクブルで読み進めていました。が、ラストで「なぁんだ〜良かったあああ!」と安堵したという(笑)
まんまと騙された報告をねこやまさんにしましたら、『いくらなんでも牧さんをそこまで変態になんてできません!』 
と素敵なお返事をいただきました(笑) ねこやまさん、大どんでん返しの面白作品をありがとうございましたvv

 


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