花とミツバチ
作者:鉄線さん



「監督、よその庭の花を盗るのって悪いことですか」


本当にうちのエースときたら……
珍しく遅刻しないで来たかと思えば、利き手を負傷していた。
問い詰めると、この返事。
前々から馬鹿だと思っていたが、これには面食らった。

「それぐらい幼稚園児でも知っとる。悪いに決まってるだろ」

そう言うと、不服そうに頬を膨らませた。

「でも花盗人に咎はなしって、言葉もありますよ」

「そういうのを、盗っと猛々しいと言うんだ」

「先生は男のロマンが分かってないな」

「何がロマンだ。それより、お前まさか盗みを……」

青ざめる田岡をよそに、仙道はへらっと笑ってみせた。

「未遂ですよ。そもそも盗るつもりはなかったし…」

香りに惹かれて、強く触れたら露が零れ落ちた。
茎に触れたら、棘を出した。
そのまま手折ろうとしたら、刺された。

「だから、これは名誉の負傷なんです」

そう言うと、ひらひらと右手の包帯を見せびらかした

笑いながら花と戯れる仙道。妙に絵になるから腹立たしい。
うっかり想像してしまい、血圧が上がりそうになった。

「馬鹿もん!!人様の育てた花を盗ろうとして、棘で怪我した!?
 自業自得だ。二度とやるんじゃないぞ」

「それは難しいな。だって見かけたら、絶対また欲しくなるもん。
 先生だって分かるでしょ。男は高嶺の花に弱いんですよ」

「分からん!!」

まったく懲りてない様子のエース。
しばらくの間、田岡の血圧が下がることはなかった。

おわり



確かにこういう洒落た会話を楽しみたいならば、田岡くらいの年齢じゃなきゃですね〜♪
ここでの花は私が語るまでもない! 想像(妄想?)をかきたてるお話をありがとうございましたv

 


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