あなたへの距離
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作者:鉄線さん |
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「お前、相当遊びなれしてるな」 うっかり財布に入れっぱなしで忘れていた避妊具、それを牧に見つけられ内心慌てた。 「昔ですよ昔、俺が禁欲生活してる事、牧さんが一番良く知ってるでしょ?」 牧が黙ったままなので、怒ってるのかと身構えた。 「じゃあ、かなりたまってるだろ」 怒られはしなかったものの、微妙な言動に戸惑った。 「直球ですね・・・まあ青少年なのでそれなりには」 「ふーん、若いと大変だな」 「一歳しか違わないでしょ・・・」 「じゃあ、俺が協力してやろうか」 そういうと、牧は不敵な笑みを浮かべた。 数時間後、二人はベッドの上・・・では勿論無く、公園でボールを手に汗を流していた。 「ちょっと期待したのに、これだもんなあ。実は確信犯でしょ」 「何ぬかす。昔から性欲の発散と言えば運動だろ。 さすがに少しオーバーワークだったけどな」 お互い、肩で息をしながら芝生に座り込んだ。 「しかし人のこと言うけど、牧さんにそういう欲情はないんですか」 この人なら本当に、運動で発散させてそうだが・・・いや下手したら不能かも、 牧が聞いたら激怒しかねないことを想像していたが、 「あるにきまってるだろ」 あまりにさらっといわれ、面食らった。 「なんだよ、そんなに意外か」 「いえ・・・で、それをどう解消してるんですか」 急に生き生きしてきた仙道を見て、牧は不思議そうにしながらも答えた。 「まあ一人でやる分にも嫌いじゃないが・・・」 「自給自足!?それで・・・」 「やっぱり大勢の強い奴を相手にした時が一番燃える」 さすがにここに来ると、おかしい事に気づいた。 試合中はともかく普段はガードが弱い牧が、奇跡的にも未開拓なことは知っている。 3Pをスリーポイントだと信じている彼が、乱交なんてありえない。 ではこれは何の話なのだろう。 「牧さんすいません。ええとそれは、何について語ってるんですか」 「バスケだ。」 仙道は頭が痛くなってきた。 「あの、俺は牧さんの欲情について聞いてたんですけど」 「だからバスケだって言ってるだろ」 牧は心外そうな顔で、少しむくれた。 「いや普通・・・オナニーとかセックスとか下の話でしょ」 「普通って何だ。お前だって男が好きな時点で、普通じゃないだろ」 「それとこれとは違うでしょ」 「俺には違わない。俺はそういう経験は無いけど、試合の時の期待と興奮はセックスに負けないと思う。敵をどんな風に食らって、打ちのめすか・・・考えるだけで震える」 そういって遠くを見つめる牧の瞳が、仙道に何かを思い出させた。 何かに似てる・・・ 仙道の頭に過去の彼女たちとの痴態がよみがえった。 次の瞬間、頭を殴られたような気がした。 これは快感に耐える恍惚の表情だ。 普段の牧は確かにぼけているが、決して嘘や冗談は言わない。 それは知っていたはずだ。 「俺ってバカだ・・・」 「いまさら気づいたのか」 打撃を与えた本人はのんきなものだ。 仙道の頭の中に、牧が性的な事に関心が薄いのは、何も知らなかったからではなく、 セックスより気持ちいいことを知っていたからでは、という考えが浮かんだ。 「牧さんは・・・本当にバスケが好きなんですね」 「ああ、大好きだ」 この満面の笑み・・・嫉妬に胸が痛くなる。 「それだから、女の子に振られたんですよ」 そういうと、少し傷ついた顔をされた。 「いつもバスケをしてる俺が好きって告白されるのに、最後はバスケしか見てないところが嫌だって振られる。皮肉だな」 「そうですね」 今なら、その女の子たちの気持ちが分かる。 どこに自分の恋人が、逢引しに行くのを許せる女がいるだろう。 いやむしろ牧にとってはバスケこそが本命で、彼女たちや自分はほんの些細な気まぐれに過ぎないのかもしれない。 そう考えると少し泣きたくなってきた。 「今年は特におもしろかった。藤真と再戦できなかったのは残念だが、 桜木や流川という収穫もあったし、冬が楽しみだ」 うっとりとした表情を見ていても、すでに心ここにあらずという感じである。 だが、ふと何かに気づいたように真顔になった。 「どうかしましたか」 「でもお前と争った時が一番気持ちよかった。神奈川で俺についてくる奴初めてだったし、全国でも見たかったよ。今まで会った中で、トップ3に入る選手だ」 この人はすごくずるい。気の無い相手にでも、平気で殺し文句吐けるなんて・・・ そんなこと言われたら、あきらめられなくなるのに 「またやろうな」 「そういう台詞はベッドで言ってほしいな」 「ふざけんな」 冗談めかして振り上げた手を引き寄せた。 有無も言わさぬまま抱きしめた。 「抵抗しないんですか」 そう聞くと 「突然すぎたから・・・よく分からん」 という戸惑った返事が返ってきて笑えた。 「牧さんのにおいがする」 首筋に顔をうずめたら、犬みたいだなと笑われた。 子供のじゃれあい位にしか思われていないのか、抵抗しないのをいい事にそのまま 抱きしめた感触を味わった。 服の上からでも分かる、綺麗な体だと思った。 この長い手足も、鋼の筋肉もバスケをする為の人だと感じた。 「牧さんはバスケの神様と相思相愛なんですね」 「おもしろいこと言うな」 この手がすべて掴んでいく・・・勝利も栄光も、俺の心までも、 そう思ったら我慢できなくなって、右手に口づけていた。 顔を見なくても、牧さんが真っ赤になっているのが分かった。 可愛い人だ 「俺は二番目でいいですよ」 とりあえず今は・・・ 「神奈川No.1の座を狙ってたんじゃなかったのか」 牧さんは、また誤解をしているようだけどそれでいい。 「狙わなくても、手に入れて見せますよ」 「簡単には負けてやらんぞ」 好戦的な眼、そこがまた好きだけどもっと違う形ででも俺を求めてほしい。 「バスケの勝負も勿論ですが、恋の勝負にも乗ってくださいね」 「仙道寒いぞ・・・」 結構本気で言ったのに、帝王様にはお気にめさなかったらしい。 「花の命は短いのに、咲く前に終わったらもったいない。取りあえずは・・・」 赤き唇褪せぬ間に 軽く唇を合わせるだけのキスをした。 そんな二人を夕陽だけが見ていた・・・ わけもなく、バスケをしに来た小学生に一部始終をしっかり目撃されており、 後日 『ツンツン頭のイタリア人と黒人のおっさんが、公園でキスしてた』 という不名誉な噂が広まり、 仙道は田岡に、牧は神にきっちり尋問を食らったのだった。
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まだ友人以上恋人未満な二人…? 牧がちょっと受け入れてきてる感じがステキですv
これからが気になる二人をありがとうございました!! 余談ですが梅園も3Pをスリーポイントと読みました(笑) |