花火に行こう
作者:まつこさん






「今週末、海岸で花火があがるらしいぞ」

休憩の時間、水を飲みながら、桜木が満面の笑みで言った。

「行くのか?」

「行く、絶対に行く!」

桜木はとっても嬉しそうに目を輝かせている。

「センドーは行かねーのか?」

「ひとりで行ってもなぁ・・・。」

「ひとり?彼女とかは?」

頭の中に、彼女とはとうてい言えないようなガタイのいい一人の男が浮かぶ。
海南大の牧紳一。
バスケットをしている人間ならば、たいてい聞いたことのある名前だ。
そして、オレ、仙道彰は、そんな人物と、不思議な関係にある。

「彼女ってワケじゃないけど、この時期、サーファーにとったら、早朝が勝負だろ、早寝みたいだし・・・。」

「その子、サーファー?」

「うん。」

「ってことは、真っ黒?」

「ははは、そうだね。」

牧さんのサーフィン姿を思い出した。
釣りをしながら、よく牧さんを見てたっけ?
牧さんのあの黒さは、まさしくサーファー焼けしたからなんだと思う。

「なんか、イメージつかん。」

「どんなイメージだよ。」

オレの隣に牧さんがいるイメージは、桜木には、流石に出来ないかな?
確かに、オレ自身、牧さんとそんな関係になるなんて思ってもいなかったのは確かで。
それでも、今のオレにとっては、当たり前のことで、牧さんのイメージしかない。
だから、つい苦笑してしまう。

「でも、たまには、波より花火もいいんじゃねぇ?きっと喜ぶと思う。」

「へー。桜木んとこは、どうなの?喜んでくれるの?」

「おっ、オレんとこ!?うー・・・感情表現下手だからなアイツ。」

桜木の目が明後日の方を向いた。
オレは、その先に、無愛想なアイツがいることを知っている。

「なんか、流川みたいな子だね・・・。」

そう言うと、桜木が目を見開いて、あからさまに慌てだした。

「ルカワッ!?ちっ、違う、違う、全然、違う!!ルカワがオレの彼女なんて、絶対ない!!」

「あはは、ゴメンゴメン。」

たまに、桜木をいじめてみたくなる。
あんまり正直すぎて、そんなところが、ちょっとだけうらやましい。
同じように人に言えないような恋愛してるくせに、あんまり幸せそうだから。

「絶対にっ、絶対にっ、絶対に違うっ!!」

「分かってるって、落ち着けよ。」

はぁはぁと息を切らした桜木をなだめながら、まったく可愛いヤツだと思う。
桜木は、真っ直ぐだ。
そんな子供みたいな笑顔をする桜木を見てると、なんだか本当に花火もいいかもしれないって気がする。

「オレも、誘ってみようかな・・・。」

牧さんが「うん」というか分からないけれど。

「まぁ、とにかく花火はいいっ。二人ででっかい花火観て感動して、それから、こう・・・、なんかよう・・・。」

「妄想入ってんなぁ、桜木。」

何にも知らないと思って・・・。
桜木と流川がケンカしながら、花火を見ている姿が目に浮かんだ。
で、それから、こう・・・って、なんだ?その先って!??
オレのいる前で、如何わしい妄想は、出来れば避けて欲しいけれど・・・。

知らないフリをするのも、なかなかに厳しい。

「思想の自由だ。」

「はいはい。」

なかなか現実世界に戻ってこない桜木につられて、ちょっとだけ、オレも思想の自由ってのをやってみる。

牧さんは、きっと浴衣なんか着ていて、オレと二人で、でっかい花火を見上げて。
でも、きっと、オレは、花火よりも、牧さんのうれしそうな横顔をこっそり盗み見てしまうんだろうと・・・。

うんうん、牧さんと花火ってのも、いいかもしれない。

ついつい、桜木みたいに顔がニヤケそうになったと慌てて我に帰ると、いつの間に、現実に戻ってきたのか、桜木が、オレを見ていた。

「センドーもよう、その子に、言ってやれよ。「あんま、サーフィンばっかしてっと、『じい』みたいに真っ黒けになっちまうぞ!」って。」

「!!」

「さーてと、休憩終わりだ。」

桜木はそう言うと、さっさと体育館に戻っていった。



一週間後の花火大会―――

「ねっ、来てよかったでしょ。」

「あぁ」と、花火に見とれたまま牧さんは、返事をした。
牧さんは、浴衣じゃなかったけれど、オレと二人で、でっかい花火を見上げている。
そして、オレは、花火よりも、牧さんのうれしそうな横顔をこっそり盗み見ている。

「仙道、今の花火、すごかったな。」

「えっ・・・はい・・・。」

「なんだ、観てなかったのか?」

「あっ、いえ。」

正直に、花火よりもを見上げる牧さんに見とれていた。
なんて言ったら、流石にひくかな・・・。ポリポリと頬を掻いた。

「一緒に来た意味がないじゃないか。一緒に感動を味わえないなんて。」

「すみません、花火もきちんと観てますよ。」

なんとなく意味ありげに言ってみたけれど、牧さんに通じるかはわからない。
ただただ、感動している牧さんを観ていたらうれしくて、そんな牧さんを感動させた花火を見上げた。
大きくて、キレイで、ドンっと胸に響く音。

「誘ってくれてありがとう。」

牧さんが、オレを見て、にっこりと笑った。
その瞬間、胸にドンっと響いてきた音は、花火をかき消すほどだった。
まいったなぁ・・・。
一緒に感動を味わうどころか、オレだけ、先走ってる気がする・・・。

牧さんが、こんなにも喜んでくれるなんて、予想以上で、こう・・・なんか・・・。
如何わしい妄想をしそうになったところで、花火の終盤、スターマインの音が聞こえてきて、我に返った。

「これは、桜木のおかげなんです。」

本当に、提案してくれた桜木に感謝する。
こんなに喜んでくれる牧さんが見れたんだから・・・。
そう思って牧さんを見ると、さっきまでうれしそうにしていた牧さんの顔が、急に固まっていた。

あれ?どうかしたのかな?

「最近、お前は、桜木桜木って・・・。」

「えっ!?」

「イヤ、なんでもない。」

牧さんは、花火を見上げたまま、でも、眼中に入っているのかいないのか、ただ空を見ているようだった。


ねぇ、牧さん?
もしかして、なんか、オレには、ちょっと子供っぽい顔に見えるんですけど。
もしかして、なんかものすごい勘違いしちゃってます?ってか、牧さん、それって、嫉妬!??



「花火、終わっちまったな。」

牧さんが、急に元気がなくなったように見えた。
シーンと静まり返った空に、別れを惜しみながら、ゆっくり立ち上がると、人の流れにそのまま流されるように歩き始める。
本当は、今すぐにでも、手を取りたいのに、こんな公衆の面前で、そんなこと出来るはずもなく。

「今から、このまま二人で、どこか・・・」

そう牧さんにしか聞こえないように呟いた時だった。
前から、見知った顔が歩いてきた。

「センドー!?」
「桜木!?」

もちろん、桜木の横には、あの流川がいて、オレの隣には、牧さんがいる。
桜木が、思いっきり慌てだし、オーバーリアクションで弁解を始めた。

「今日は、たまたま、偶然、ルカワに会って・・・。それで、オレは、イヤだったんだけれど、コイツがどうしてもって言うから、花火を一緒に観てやろうかと・・・。」

その時、流川からのローキックが桜木に炸裂する。
当然と言えば当然だなっと思いながら、二人のケンカが始まったので、オレは、その隙に平静さをどうにか取り戻す。
一瞬、顔面から血の気の引く思いがしたけれど、至って牧さんは冷静だった。
どう考えたって、付き合ってるようにしか見えない、ケンカする桜木と流川を楽しそうに笑いながら見ている。
きっとこれで誤解も解けたに違いない、そう思ったとき、牧さんが妙なことを言い出した。

「そうだ。せっかくだし、どうだ?一緒にメシでも。」

「えっ!?」

そう咄嗟に聞きなおしたのは、紛れもなくオレ・・・。
ちょっと考えれば、牧さんならば言いかねない提案。
が、自分の中の思想の自由と反している。

「・・・別にいーけど。」

そう流川が答えた時点で、話は成立してしまっていた。

ふと、背中に突き刺さるものを感じる。
が、振り返らなくても、ギリギリと桜木の目線が突き刺しているのが分かった。

気付いてない振りをするのも疲れる。
そして、オレも、桜木と同じ思いだというのに・・・。

もちろん、牧さんに悪気はないんだろうが・・・。
せっかくの花火だったのに。
バスケのことは、とんでもない策士なくせに、こういうところは、何にも考えていない人なのだ。


花火の会場からかなり離れてきていた。
人もバラけてきて、さっきほどは暑苦しさもなくなってきた頃、牧さんがオレだけに聞こえるように呟いた。

「よかったな。これで、桜木と一緒にいれて。」

「なっ!?」

牧さんはいたずらっ子ぽく笑っていた。
それって!?

まだちょっと不機嫌面をしている桜木と無表情で涼しそうな顔をしている流川を見て、はぁーっとため息が漏れる。
分かっているくせに・・・。
実は、意地悪なところもあるんだと、ちょっと意外な面に、驚きながらも、やられた気がした。


「今度は、二人だけで花火に行きましょう。」


そう牧さんの耳元で、こっそりと呟いた。
牧さんが、急に困った顔をして、それが、満更じゃないのは、耳が真っ赤になっていくので分かる。
そんな正直な牧さんも、好きだな・・・っと、オレは、また牧さんに見とれている。


そして、その奥に、いつの間にか背景画と化していた桜木と流川が、本当に固まっているのが見えた・・・。


あれ?
もしかして、今の話、聞こえてた!?





おわり



続編が読めるなんてすっごい嬉しい〜v ラストの台詞に仙道らしさが現れていてツボですv
こんなに牧が可愛くなっちゃうのはきっとそんな仙道のせいですよね♪ 可愛い四人をありがとうございました!!

 


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