Good morning, sir.
|
|||||
作者:リツさん |
|
||||
|
|||||
オレの牧さんは大学のバスケ部でもキャプテンだ。 誰からも好かれ人望も厚いけれど、厳かな空気も纏っていてまさに王者の風格。でもその牧さんが実はひどく甘えん坊だということを密かにオレは知っている。 どんな屈強な戦士だって自分の時間には羽を休めたいものだ。牧さんがオレの胸でその逞しい羽を休めてくれるならこれほど満足なことはない。 オレの胸で羽を休める帝王の図・・・そんなものを想像したらたまらなくなって、オレは自分が入学するなり同居を申し込んだんだ。 牧さんの甘えん坊には前々から気づいてはいたけれど、一緒に暮らすようになってからオレは確信を深めた。見かけはともかく、牧さんは甘やかされて育ったおぼっちゃまなんだ。あの立ち上る品の良さが育ちのいい証拠だ。 朝もきちんと起こしてくれる人がいないと起きられない。夜は1人でご飯を食べるのが嫌で、オレの帰りをじっと待っていたりするような寂しがり屋。 そして家事もほとんどダメ。牧さんがテキパキなんでもこなすのは、人を仕切る時だけ・・・なんて言い方はいけないな。牧さんは帝王なんだから、雑事をする必要なんて全くないんだ。 苺だってヘタを切ってから出してあげないと、フォークを持ったまま途方にくれている。まして苺のヘタをとらせようとナイフなんか持たせたら・・・指を切ってしまった。 だから飯を作るのはオレの仕事。 自慢じゃないけどオレは結構器用になんでもこなすクチ。料理だって高校のころから1人暮らしだからお手の物だし、特に牧さんと暮らすようになってからは、牧さんの喜ぶ顔が見たいのと「これ、美味いな」のひと言が聞きたくてレパートリーは一気に増えた。さらにどんなにハードな夜を過ごしても翌日はしっかりバスケをしてもらわないといけないから、栄養面でもすごく気を使う。そのせいかどうかはわからないけれど牧さんの肌はいつもつやつやだ。 朝もいつもオレが先に起き出してご飯をつくり、牧さんの大好きなブルマンの香りとオレのキスとで牧さんを起こすことにしている。 それが、その朝目が覚めたら隣に牧さんがいなかった。 「牧さん・・・?」 トイレかなと思ってちょっと待ってみたけれど牧さんは戻ってこない。 それどころかキッチンの方で何か音がするので、オレは慌てて飛び起きた。 (牧さんもうお腹すいちゃったのかな?だったら起こしてくれればいいのに・・・) そう思いながらジャージをひっかけて寝室のドアを開けてオレは固まった。 牧さんがオレのエプロンをつけてキッチンに立っている。 「・・・ま、牧さん?どうしたんですか?」 「ああ、仙道起きたのか・・・」 オレに気づいて牧さんが照れたような顔をする。それがまた可愛くてたまらないけれど、ぐっとこらえてこの現状把握に努める。 「おはようございます・・・えーと・・・何してるんですか?」 「・・・朝飯を作ってるんだが・・・」 牧さんは1度視線を下へ落としたあと、ちらっとオレを見上げて照れ笑いをした。 「・・・結構難しいものだな」 その足元には一センチほど厚さのあるりんごの皮がいっぱい落ちている。 「どうしてまた・・・?」 「いや、いつもお前にばかりやらせているから、休みの日くらいは俺がと・・・」 そう言って牧さんはさらに照れて俯いてしまった。 ああ〜もうたまらない! 牧さんが、帝王の牧さんがオレのために早起きしてご飯を作ってくれている! それだけでこの焦げたようななんだか不穏な匂いも気にならないし、2センチ幅のキャベツの千切りもひどく美味そうに感じる。 そして目玉焼きの焦げた縁も、ちょっと焼きすぎたトーストも、甘そうなカフェオレも、全部牧さんの肌の色に見えるんだから、オレはそうとう腐っている。 思わず 「牧さん、オレ、最高に嬉しいです!」 と抱きしめてしまったオレは牧さんが持ったままだったフライパンにあたって火傷を作ることになった。 それでもオレは幸せ♪ 牧さんの手料理を牧さんと一緒に食べるこの幸せ♪ 「目玉焼き硬くないか?」 「全然!オレ半熟だとダメなんですよね〜」 「トーストが焦げすぎたかな?別のを焼こうか?」 「そんなこと!このくらい焼けてた方が香ばしくていいんです!」 「仙道・・・おまえ意外となんでもいいんだな・・・」 本当はそんなことはない。オレの口は肥えてる方だ。 それでもこの硬い目玉焼きや焦げたトーストがおいしいのはすべて牧さんが作ったからなんだ。 そう思いながら牧さんの顔を眺めていたら、牧さんがちょっと小首を傾げて怪訝な顔をした。そんな仕草もとても愛しい。 「仙道・・・」 「はい?」 そこで帝王の命令が厳かに響く。 「その顔、もうちょっと引き締めろ・・・」 「はいっ!♪」 今日はとってもいい天気。 素敵な一日が始まりそうだ。ねえ?牧さん? −おしまい−
|
|||||
|
|||||
リツさん初の仙牧小説をゲットしました!!牧にメロメロな仙道は私の大好物♪やったぁ♪
実は牧がメチャメチャ甘えん坊だなんて、新鮮で可愛い!! 甘く楽しい作品をありがとうございましたv |