Sun-burn
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JBLスーパーリーグの各チームから選出されたメンバーで、毎年この時期に二週間の合同海外遠征合宿が行われる。 昨夜それも無事終わり、今日は仙道達が戻って来る日。丁度牧も仕事が休みだったため、朝早くから洗車を済ませ羽田空港に迎えに来ていた。 すでに解散となっていたらしく、待ち合わせに決めていた場所には仙道と桜木と流川しか残っていなかった。遠くからでも目立つ三人の姿を見つけると牧は少し歩くスピードを早める。それに気づいた仙道が大きく手を振った。 「ただいま〜牧さん!」 「おう。桜木、流川久しぶりだな」 「あれ?ジイ、横に縮んだ?」 「そーいうのは痩せたっつんだ、どあほう」 「ああ、いいから、流川。それよりお前達はこれからどうするんだ?なんだったら送ってやるぞ」 「へっへ〜。もちろんそのつもりで仙道と待ってたんだよ。悪ぃけど俺と流川を先に東京駅まで送ってくんねぇ? 荷物増えちまってよ」 「……宜しくっす」 周囲の人混みより頭ひとつ分以上飛びぬけて高い身長の男四人。真っ赤な短髪で太陽のように明るく笑う男、綺麗としか形容できない涼しげに整った美貌の男、一風変わった髪形ではあるが端正な顔で爽やかに笑う男、そして褐色のエキゾチックな肌に彫の深い精悍な表情を少し崩すように苦笑している男。どれをとってもそれぞれが個性的でとびきりのいい男が四人ときては、どうしても周囲の目は集中する。 しかし人に見られるという事が昔から日常茶飯事であり他人の視線など気にしない四人は、きわめて平然と空港内の広いフロアを、駐車場に向かって談笑しながら歩いて行った。 桜木と流川が所属するチームの話やそれぞれの近況などを、牧と桜木があれこれ話しているのを、流川は眠そうに、仙道は面白くなさそうに聞いていた。が。 「ちょっと、牧さん〜。俺の存在を無視しないで下さいって! 二週間……いや、実際は三週間近く会えなかったんすよ。熱い抱擁で出迎えてくれんの期待してたのに〜」 そうまくしたてると仙道は牧を背後からがっしりと抱きしめて足を止めさせた。そして案の定『バカヤロウ!こんな所でふざけるな!!』というおきまりの肘鉄をくらって腕を解く羽目になった。桜木も流川もすっかり慣れたもので、驚きのあまりざわつく周囲の反応とは違いのんびりとしたものだった。 「ジイ、まぁそう言うなって。仙道も俺と流川にあてられて一人で哀れ……イダダダ☆ 何すんだ流川!!」 「誤解されるようなことを言うんじゃねえ、どあほう」 「んだよっ、照れんじゃねーや今更よぅ。……あっテメ、このっ、やりやがったなっ!」 流川と桜木は重い荷物を持ったままお互いの足を踏みあっている。外見的には大分大人になっていたが、昔と変わらない子供がじゃれあうような、それでいて本当に痛そうなことをやりあっている二人を牧は苦笑いしながら止めた。 「いいから、さっさと行くぞ。駅行く前にどこかで食事するんだろ。何時の新幹線に乗りたいって?ほら、仙道もスネてないで歩けよ」 三人の背中を平等な力でバシバシと牧が叩いてまた歩かせた。その時桜木と流川が目を合わせ、同時に『仙道、ジイの尻に敷かれまくりなんだろうなー』とアイトークをしていたことは、もちろん先を行く仙道と牧には気づけるはずもなかった。 桜木達と昼食を共にし駅まで彼らを送ってから、牧と仙道は高速に乗り神奈川の自宅へと戻った。 土産話に近況報告。久々に自宅でとる牧の手料理に舌鼓を打ち、深い浴槽にぬるめの湯をたっぷり張って体を沈め疲れを流した。もちろん湯上りには一杯の冷えたビール。 「あ〜、極楽極楽」 ソファに長い足を投げ出して、思い切り幸せそうな仙道に牧はつい笑ってしまう。 「海外でいいホテルだったんだろ? ビールだってあっただろうが」 「どんだけいいホテルだって牧さんがいなきゃ意味ないって。しかも同室の奴は畠山だったし。ムサイわつまんないわ。もうね、牧さんがいる我が家が最高。ここが楽園!」 「……随分安上がりな楽園だな」 「このあと最後、とっておきの時間を含めたら、そりゃもうここは世界最高のパァ〜ラダァ〜イス♪」 仙道にとってあと望むべき事は、当然一つしかないというのは、向けられた瞳を見て牧にも容易に想像がついた。 疲れているだろうからもう寝ろと言う牧の腕をひっぱって、仙道は寝室のドアを開けた。 唇が離れると牧はすぐに仙道を見つめてしまう。ジロジロというよりはどこか不思議そうに何度も仙道の顔を覗き込むように。 違和感が消えない。約三週間ぶりだからとかそういう理由じゃない。向けてくる笑みも触れてくる指の動きも、その指が次に触れてくる先すら知っているのに。 そんな思いが僅かに顔に出ていたのだろうか、仙道は組み敷いていた牧に視線で『どうしたの?』と尋ねてきた。 そっと牧の手が仙道の頬に触れる。肌の色が近い。それでもまだ自分の方が少し浅黒いけれど、今まで意識しなかっただけに不思議で……。 『理由は、これか?』 そう思い当たると牧は自分の鈍さに流石に呆れてしまい、いささかぶっきらぼうな口調で訊いてしまった。 「どれだけ太陽の下にいたんだよ……」 牧の言葉を一瞬理解できなくてきょとんとした仙道は、牧の首筋に添えた自分の手を見て笑った。 「そりゃもう日射病にならない程度に長く。しっかり焼いてあんたと同じ肌の色になってみたかったんだ。俺の大好きなこの肌と……」 唇を耳に添えるように近づけて、吐息だけで『同じになりたかった』と囁かれて牧の肌が粟立つ。 牧は自分だけが戸惑っているのが口惜しくて、仙道の綺麗に焼けた首筋に軽く噛り付いた。途端、仙道が跳ね上がるように逃げて叫ぶ。 「痛いーっ!!なにするんすかーっ!!」 涙目で首筋を押さえている顔を見て、牧のほうが驚いた。それほど強くは噛んでいないはずなのに。慌てて起き上がって片手で謝ってみせる。 「すまなかった。でも、そんなオーバーリアクションされるほどのことは……」 「牧さん。今日は悪ぃけどマグロのままでいてくれません? 俺、急な日焼けでちょっと肌が……」 バツが悪そうに仙道が苦笑いを向けてきた。どうやら一見綺麗に焼けているけれど、まだ熱を持っていて火傷に近い状態らしい。 ぺたりと仙道のハーフパンツから出ている太腿に牧は手を置いた。軽く爪を立ててみる。またしても飛び上がるように仙道は足を引くと、ベッドの上から 「酷いよ〜。マジ痛いんだから、勘弁してよ〜」 と本気で逃げだした。 暫く面白そうに笑っていた牧が、ふと思いついたように手でちょいちょいと仙道を呼んだ。 「仙道、もう苛めないからそこに立て」 自分が座っているベッドの傍を指差す牧に、訝しげな顔でゆっくりと仙道は近づいてきた。 「痛いことしない?」 「しないしない」 「嘘でしょ、その顔。目が笑ってる。なんかたくらんでるっしょ」 「なんだよ、今日はしないのか?それなら別にいいんだぞ。俺ももう寝るから」 あっさりとした返事に慌てて仙道は牧の前に立った。すっかりモノは治まってはいたが、本日の幸せフルコースのメインディッシュを味わえないのは我慢できない。 ゆっくりと牧の頬に仙道が腕を伸ばしたその時、牧がもとから半分開いていた仙道のハーフパンツを下着ごと一気にずり下ろした。 あっけにとられて固まった仙道を気にもせず、牧は仙道の中心部付近を見るなり盛大に笑い出した。 「やっぱりなー!!絶対ここは日焼けできなかったんだろうなと思ってさ。だからだろ、さっきからパンツだけ脱がなかったの」 仙道は真っ赤になりながら降ろされたハーフパンツと下着を一気に上に上げようとした。しかしその腕を笑いながら牧が止める。 「離して下さいよっ。やっぱあんた酷ぇ人だ。いいよ、いいですよっ。今日はもうしなくて。ちくしょー、グレてやるー」 「落ち着けって。悪かったから。電気消すからさ」 「いいですよ、もう。俺はねぇ、そりゃもう苦労して焼いたんだよ。なのにカッコイイとかお褒めの言葉も帰国してから一回もないし。焼けない場所をわざわざ確認するなんて」 報われない上にこの仕打ちはあんまりだと仙道は片手で目元を覆って嘆いてみせた。 「おい……まさか泣いてるんじゃないだろうな?」 「泣きませんよ、んなことぐらいで」 「じゃあ、ちょっとそのまま動くな」 「へ?」 臍から下、太腿の中央より上までに残る、牧が記憶に刻んでいる仙道の皮膚の色。 牧は焼けた部分との境目を撫でるように指でなぞった後、唇でゆっくりと馴染んだ色の部分を何度も触れていった。牧の掌が双丘を包むように優しく抱く。 「……牧さん?」 「そのまま目元、隠してろ。……見るなよ」 焼けていない部分全てをいとおしむかのように優しく指が辿ってゆく。濃い茂みに高い鼻梁を差し込むようにして舌は中心部へと降りていった。 ひたり……とあたたかく滑った感触に包まれて仙道の動悸が早くなる。 徐々に早さと強弱が加えられ、甘い痺れがじわじわと這うように全身を立ち昇ってくる感覚に捕らわれる。牧の掌がどちらのものともつかない汗で滑った。 仙道は空いている左手を、牧の柔らかな髪に差し込んで動きを止めさせた。 「嬉しいけど……俺一人じゃ嫌だよ。横になって。今度は俺にさせて」 「その肌では無理だろ。今夜は俺が……」 下ろされた仙道の右手の指が、濡れていつもより紅く見える牧の綺麗な唇の形をなぞるように塞いだ。 「抱かせてよ、あんたを。三週間我慢してきたご褒美に、さ」 色の継ぎ目なんてない、綺麗な褐色の肢体が汗で光る。しなやかにそらされた背に己の無理に焼いて少し赤みが残る腕を添え、撫で下ろす。 強く穿つたびに、低い咆哮のような呻きが小さく牧の口から放たれる。 強すぎる快感を振り払うように左右に髪を振り乱す姿は、ブラウンのたてがみをなびかせる高貴で獰猛な獣をいつも思わせた。 険しく寄せられた眉の下、薄い色素の瞳がベッドサイドのライトの光できつく光るのが好きだ。そこから流れ落ちる滴も、交じり合う汗の香りもなにもかも。 そして美しい滑らかな筋肉で覆われた四肢が崩れ落ちる瞬間にやってくる、純粋な肉体的絶頂感。それと同時に強烈に胸に湧き上がる征服欲に似た情愛。 全てが揃ってようやく仙道は完全に満たされるのだ。 牧は渡されたグラスの水を飲み干すと、もう一度だるい体をベッドに投げるように沈めた。そのまままたピクリとも動かない。 心配そうにベッドに腰掛けながら仙道はブランケットから出ていた牧の腕を優しく撫でながら訊いた。 「ごめん……。大丈夫?」 閉じていた瞳を半分開いて牧は視線だけを仙道に向けてはくれたが、返事はなかった。 「やっぱ、二回ともバックはキツかったよね……。でも俺、久々で止めらんなくて……」 「……お前はいつも勝手だ」 「すんません……」 項垂れて牧の腕の上に置いていた手を引っ込めようとした時、牧の腕がその手首を捉えて引き寄せた。 「勝手に俺なんかの肌の色と一緒になろうとしやがって。俺はお前の肌の色が好きなのに」 自分の手と重ねるように仙道の手を並べ見て、 「こんな無理に火傷したような色、好かん」 と呟いて仙道の手を面白くなさそうに放り出す。そのまま牧はブランケットをかぶるように仙道に背を向けた。 「……今夜だってそうだ。二回目は俺が抱きたかった。バックならお前だってシーツに肌は触れないだろ。なのに俺の話も聞かないで」 ブランケットから覗いている牧の耳と頬がほんのり赤く染まっている。仙道の胸にあたたかいものが広がっていった。 待っていてくれたのだ。自分が彼を想うように、同じ強さで。 仙道はそっと体重をかけないように牧を包んだ。耳元に小さく『ごめんね』と何度も囁く。牧は目元をやっとブランケットから覗かせてくれた。 「反省、したか?」 「はい。ものすごーく」 「……もう無理して焼くなよ? 早く元に戻るようにしろよな」 「うん」 「良し」 と、言うが早いか、牧はいきなり仙道を跳ね除けて起き上がり、かぶっていたブランケットで仙道の頭部をくるんでベッドに押し倒す。 柔らかいコットンのブランケットとはいえ、上から強く牧に掴まれているため、仙道は痛いと暴れだした。しかし牧はしっかり仙道をうつぶせて組み敷いている。 「もがくほど体中がこすれて痛くなるぞ」 と笑う牧の声でやっと仙道は大人しくなった。 「お仕置きならもう十分体中痛くなったから勘弁して下さいよ〜」 ブランケット越しに弱々しい声がくぐもって牧に届く。 「さっきお前『うん』って言っただろうが。俺が早く戻るように協力してやる」 「はぁ?何それ……っイッギャー☆」 ぴりりりりーと一気に仙道の肩甲骨部分から牧が皮をはがしたのだ。 「さっきからはがれだしてるお前の皮が気になってさぁ。思いっきりむいてみたかったんだ」 自分のだと痛いからできないけれど人のはいいなぁ、などと盛大に暴れる仙道を押さえつけながら牧はご機嫌だ。 「あ、ここもむけそうだ♪ 仙道、遠慮なく叫んでいいぞ。そのためにブランケットでくるんでやったんだからな」 本気で痛いのか大仰にしているのか、暴れて叫ぶ仙道をブランケット越しに牧は強く抱きしめた。 三週間近く、抱きしめられなく淋しい思いをしていたのは自分だって同じなのだ。それなのに勝手に日焼けしてきて、痛がるから俺からはきつく抱きしめられないなんて。 『そんな不公平があってたまるか』 口には出せない思いを晴らすように、牧は仙道の背中に新たに見つけた剥けかけの皮膚をつまんで引っ張るふりをした。 それから数週間、完全に仙道の全身の皮剥けが綺麗に終わるまで。 「シーツが汚れるから、俺のベッドに入ってくるな」と仙道は邪険にされてしまうのだった。
*end*
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この話を書いた頃はまだ牧がサーフィンをしていると公表されていなかったんですよね。
でも私は今も牧はもともと地黒だと思ってます。だからあんなに綺麗に焼けてるのだわ♪ |