love and hate
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○さい‐のう【才能】 物事を巧みになしうる生まれつきの能力。才知の働き。すぐれた天分。 俺の大嫌いな言葉。それと並んで嫌いな言葉に「天才」というのもある。同じような意味だ。 努力して努力して。血反吐を吐いても何度でも繰り返す。根性論はダサイとか体を壊すとか、そんなもんを飛び越した先にある至高の世界に自分を辿り着かせ、そこでプレイする己を信じて。 何かを犠牲にするとかしないとか、そんなこと考える余裕なんてなかった。それしかなかったから。 得るための努力。信じるにたる自分を確立するためだから努力という言葉もおかしいけれど。 それでも俺は。少なくとも俺は。今の俺は努力の延長上にある。これからもそれは変わらないし、変えるつもりもない。 「帝王」なんて呼ばれる自分に欠けているもの。そんなのは自分が一番よく知っている。 けれど。どうすればいいというのだろう。生まれつきの能力というものは。そんなものがあると認めたくもない、「天から与えられた分」というものは。 天才とは99%の努力と1%の閃きだと昔の人が言ったらしい。 その最後の1%は努力で得られないものだから、それがあるかないかで決定的な違いが出る。天才と秀才。どちらも優れてはいるけれど、天と秀。たった1%。その隔たりがどれほど遥かに遠いものか…。 自分の努力で勝ち得ないものを、本当は認めたくない。渇望してやまない醜い嫉妬で心が焼けるのは辛いだけだ。 ならば、せめて牙を立てられるギリギリまで天才というものの咽笛に近づいてやりたい。努力の辿り着く限界を超えてすら辿り着けない場所だと頭では理解してはいても。 俺が血が出るほどに歯噛みして、肉に食い込むほど肌に爪を立てても得られないものを持っている男がいる。 否定してもしきれない、たった1%という渇仰してやまないものを手にしている男。 妬み、憎み、忌み、疎み……目を逸らさなければと思うほどに、それを上回る羨望と憧憬と思慕が逸らすことすら許さずに追ってしまう。 そしてあっけなく捕われる。 この絶対なる1%に、99%の努力が無に帰す瞬間を戦慄と共に受け入れてしまう ─── 粉々に砕かれたプライドをかき集めては、必死で固めて。今まで以上に砕かれにくくなるために、強固に固めるために、また、努力して。 そんな無様な俺に1%を持つ男は夢見るように微笑みかけ、甘ったるい声で囁いてくる。 ─── 「あんただけは、俺を特別視しない。俺は、この世であんただけしか好きじゃない」 長い腕で俺を抱きしめ、熱い唇で俺の咽からせり上がってくる言葉を強引に塞ぎ、逞しい猛りで俺を蹂躙する。頭上からとろけるような眼差しを注ぎながら。 ─── 「あんたしか、いらない。愛してます」 残酷な言葉を平気で吐く男。才能を持っていることを自覚していて、それ以上を求めようとしない傲慢なこの男を。 どうやって捨ててやろう? 何といって分からせてやろうか? ─── 「そんな恍惚そうな顔されちまったら、俺、ますます図に乗りますよ」 本当に俺の今の心までお前が覗けるのなら、今の俺の顔を間違ってもそんな曲解はしないだろう。 意識が肉体の得ている強大な快感に霞んでゆく。こいつの顔も見えないほどに視界は生理的な涙で歪みゆく。 くっきりと分かるのは、深く熱く俺を串刺しにしている剛直な楔だけ。いっそこのまま、心臓まで刺し貫いて俺をお前の中に取り込んでくれりゃあいいのに。 ─── 「ねぇ、言って。俺だけを愛してるって言って下さい」 鼓膜から脳を焼くように甘い囁きをねっとりと注ぎ込んで、器用な指先で俺を煽りながら、穿つ。 言葉を吐けるほど肺に空気をもらっていない俺に強要する。 何とかパクパクと口だけを動かしている俺は、まるで瀕死の魚のようだ。 才能をもてあまして、こんな腐った魚を心底愛しそうに抱くお前は本当に哀れだ。哀れ過ぎて、愛しいと錯覚させるほどだ。 その哀れさが幾ばくか俺に優しいふりをさせる。自分と同じくらい太い首に腕を伸ばして巻きつけ、引き寄せてもやる。 ─── 「大丈夫。あんたの言葉、俺には聞こえたから」 嬉しそうに絡めた腕へ吸い付き音をたてた唇は、労わるように俺の腕を舐め上げた。 両脚が胸に付くような、より苦しい体勢にされる。抗う気力も体力ももう残っていない、シーツの上の瀕死の魚を、奴は一度抜いた長い槍でえぐるように挿しなおす。思わず口から悲鳴のようなものが漏れてしまう。 ─── 「あぁ!すげ、いい…。ごめん、苦しいよね。でも、ほら、あんたも…こうされんの、いいんだよね?」 再び先端から溢れ出てしまったものを指でぬるりと伸ばされながら掻かれる。自分の脚の重みとこいつの重みが肺をさらに圧迫する。 その苦しみを上回る雄芯への執拗な長い指の愛撫。痛みなのか快感なのか判別しがたい身を焦がす熱を生み出す、楔の律動。 先にいきたくない、あと少し堰き止められればこいつは先にいく。そんな考えも酸欠で朦朧としだした頭から消えていく。 この苦しすぎる快感を吐き出すだけの存在に成り下がりたい。 甘すぎる疼き。 抑えきれない。 堕ちていく。 全ての思考を捨て去ることを許す、昏く甘美な敗北の誘惑へ。 残っていた僅かな酸素全てが勝手に口から漏れ出すのと同時に、たまらない快楽の渦中へ叩き込まれた ── 波が去ったことで冷静になれた俺は、戯れに尋ねてみた。先ほどの音を伴わなかった俺の返答は本当に届いていたのかと。 額に降りていた黒髪をざっと両手で上にあげた奴は、俺の上に再び覆いかぶさってくると、耳朶を甘噛みしながらうっとりと囁いた。 「もちろん、届きましたよ。……『憎しみと判別つかないほどお前を愛してる』って」 ごくりと自分の咽が鳴った音がやけに大きく感じた。ゆっくりと首を捻じ曲げて間近にある男の顔を覗きこむ。 そこにはぞっとするほど美しい笑顔、が、あった。 形の良い唇の両端が綺麗なカーブを描いている。そこから呪縛を孕んだ言の葉が漏れ出すのを、ただ黙って俺は見つめた。息を止めて。 「ねぇ、知ってますか? 俺になくてあんたにある才能。それはね、『努力し続ける才能』と『俺を愛する才能』ですよ ……」
* end *
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いつも甘々しか書けないので、ちょっと頑張ってそうじゃない二人を書いてみました。
でもやっぱり好きじゃない〜☆ こんな性格の二人は私の好きな二人じゃないよぅ。ぷんすか。←なら書くな(笑) |