夢ならば
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大学も違っていたのに社会人となりこうして同じ職場、同じチームでバスケをしている。 この偶然……俺にとってはこの奇跡のような日常だけで十分だ。 そう思い続けて何年俺は、移り変わる季節にお前の笑顔を重ねひっそりと胸に収めて過ごしてきたのだろう。 そしてそれはこれからも変わらない。ずっと重ねていく。俺に向けられるお前の笑顔がこれからも変わらないために。 トレーニングルームから出て、しんと静まりかえった廊下の窓を見ると、ポッカリと黒い四角い穴が壁にならんで空いているように感じさせた。月くらい出ていないのだろうかと首をかしげていると、隣の廊下から澤口と仙道の声が聞こえてきた。 「あーあ。俺も兼平女史みたいな美女と付き合いたいなぁ」 「彼女、今はフリーだよ。声かけてみれば? 澤口なら案外うまくいけるかもしんねーよ?」 「おぇ!? お前、いつ別れたんだよ? 何で? あんなボインボイン美女、今時なかなかいないぜー? 勿体ねぇ!」 「いいじゃん、別に。んなことより…あ、牧さん」 澤口に贅沢者めと首を絞められそうになるのをさけて走ってきた仙道が、交差した廊下の左向こうに牧が立っているのを見つけて牧へ笑顔をよこした。一度澤口へ振り返り先に帰ってくれと告げると、牧の方へ嬉しそうに走って来る。牧は「廊下を走るなよ」と苦笑いを向けた。 「牧さん!一緒に帰りませんか? 俺、今日は財布あったかいんでオゴリますから、ちょっと一杯やりません?」 「…シャワー終えるのを待つってんなら、奢られてやってもいいかな」 満面の笑みを浮かべて待ってますと頷く仙道へ牧も軽く笑い返すと、少し早い足取りでシャワールームへと踵を返した。 賑わった通りから一本外れた細い路地に入ると『居酒屋・魚心』と黒い毛筆文字の浮き出た看板がすぐに目に入る。オレンジ色を帯びたライトが看板と入り口の扉を照らしていた。 仙道のいきつけのここは、高校時代の先輩でいかつい2mの大男の魚住が店主として切り盛りしている店である。牧も高校時代にバスケの試合で何度か魚住とは対戦をしたこともあり、何度も連れてこられているうちに今ではもう仙道同様にすっかりなじみの店となっていた。安くて美味くて量がある、良心的な今時珍しい店のため、金曜の夜などは電話を入れておかないと二人ですらすぐには席につけない。それでも水曜の夜などは「奥の部屋、使っていいぞ」と、魚住が数少ない掘り炬燵の一室を提供してくれたりもする。今日も魚住の厚意に甘えて二人は掘り炬燵に足を下ろした。 本日のお薦め料理などを数皿と熱燗を頼んでようやく、寒かった秋の夜気を捨て、二人は暖かな店内に体が溶け込むような小さな幸せを感じながら温かいおしぼりで顔を拭いた。 ほどなくして熱燗と料理、そして魚住の差し入れの地酒がテーブルを飾った。 明るい仙道の楽しげな声も、それに応える穏やかに楽しそうな牧の声も、にぎやかな店内には薄い壁越しであっても届く事はなかった。 酔いが回ったのか、仙道はネクタイをはずしてメニューを扇子代わりに顔をあおぎだした。牧もネクタイを緩め、第一ボタンをはずしてくつろぎながら腕時計にちらりと目をやった。 「牧さんには……好きな人、いるんですか?」 牧が明日も仕事だしもう帰ろうかと言おうとした矢先に、今までの会話と何のつながりもない質問がなげかけられた。 先ほどまでの楽しい酔いを感じさせていた様子とはうって変わった、思いつめたような仙道の様子。そして牧もまた、穏やかにほろ酔いといった状態から一瞬にして硬い表情へと変わってしまっていた。緊張にも似た空気が場を支配する。 「お前は、いるんだろ。兼平さん…」 言葉にしてしまうと、仙道に何度も笑顔をむけられた日の夜に感じてしまう痛みがぶり返す。その長い腕が彼女を優しく抱きしめる様子を見たわけでもないのに、心臓をかきむしりたくなるような錯覚を抱く夜を思い起こしてしまう。 「彼女とはとっくに別れてますよ。最初から俺は彼女の飾りとして、俺は彼女を代用としてというルールで付き合っていただけで。あんたは…そんなん許せないだろうけど」 「どうして俺が? 俺は関係ないだろ。…恋愛相談は、すまんが俺には向いてない、から」 頼むから、これ以上俺の胸を乱さないで欲しい。仙道が誰を抱いていたとしても、誰を本気で想っていたとしても。俺には全く関係ないことに変わりはないのだから……。 視線を伏せて、仙道の少し苦しそうに見える眼差しをさえぎる。この会話を続けたくないという己の意志が少しでも通じることを願って牧はそっけない言葉で打ち切ろうとした。 短い沈黙を仙道の硬い声が破った。 「俺がくだらないそんな関係を半年もだらだら続けたのは。……牧さんが兼平を好きだって噂を耳にした頃、兼平に暫く遊ばないかって誘われたんす。あんな女にあんたを捕られたくなくて、それだけで『そんなルールでいいなら』って。」 「え……?」 「先月兼平から聞いたんす。今、牧さんは兼平じゃなく、別に好きな人ができたって。なら、もう無理して関係続ける理由なんてない。そうでしょ? …教えて下さい。牧さんの好きな人って、誰なんですか?」 あまりに突拍子もない話に牧は伏せていた目線を仙道の顔に当て、ポカンとしてしまった。 「教えたら俺に先に奪われると思う? そう……そうだよね。でももうそんなことしねぇっす。これ以上あんたに憎まれても辛すぎる……。ただ、聞いて、んで、あきらめようって思ったんです。自分に…そろそろけじめつけようかって」 仙道の泣きそうな笑顔が不思議だった。顔もはっきりと思い出せない兼平女史のことや、自分にはいもしない好きな女性のことを一生懸命探ろうとする仙道。わけが……解らない。 「俺は、兼平さんを好きじゃない…というか、よく知らない。半年前にそんな噂があったなんて、それこそ知らない」 「は?」 「勘違いだ、全部。それに俺はお前を憎んだことなど一度もない」 「嘘……」 「本人が言ってるんだ。嘘なはずがない」 牧は憮然とした顔できっぱりと告げた。 「……じゃあ…今までの俺のやってきたことって……」 座椅子の背もたれにどっかりと体を預け、仙道は頭を抱えて暫く天井をあおいでいた。 そんな仙道の様子を気にかけるよりも、牧は頭の中で先ほどの言葉を何度もリピートし咀嚼しようと懸命だった。『あんたを捕られたくなくて』『あきらめようと』って……どういうことだ? そんなの、まるで…まるで……。 自分の都合のいい答えにたどり着こうとしてしまう思考にストップをかけるべく、牧はつとめて冷静を装う。 そんな牧の無理に作った無表情は、後ろめたいことの多い仙道に不安を抱かせるのには十分なものであった。それでも仙道は震える声ながらももう一度、訊ねる。 「牧さんは今、好きな人はいないってことなんですか?」 無表情だった牧が、困ったように眉間に皺を寄せた。言外に“いる”と言っているようなもので、それは仙道に大きな落胆をもたらした。 「やっぱり…好きな人、いても教えてくれないんすね。信用なんねーよな、俺なんて。ははは…自業自得ってやつだ」 乾いた笑いを口元に残しながら目元を片手で覆った仙道を牧は黙って見つめた。 そんな悲しい笑いをさせてしまっているのは俺なのだろうか。嘘をお前にはつきたくないから…どうやって話せばいいのだろう。 牧はぬるくなってしまっている熱燗を煽ると、腹をくくって話し出した。 「好きな女性は、長いこと、いない。本当だ」 仙道はゆっくりと片手を下げ、真剣な瞳を牧の瞳に固定させた。静かな室内に店内のざわめきだけが微かに届く。 「今度は俺に質問をさせてくれ。…さっきの『あきらめよう』ってのは、どういう意味だ?」 「言葉どおりです。できるかは全く自信ないけど、あんたを好きで、あんたを手に入れたいと思う気持ちをあきらめるっていう意味です」 牧は何かに撃ち抜かれたような衝撃に襲われた。 指先がやけに震えだして止まらない。店内のざわめきも何も聞こえない。 仙道だけしか見えなくなってしまっていた。体中を血が駆け巡る感覚と恐ろしいほどの浮遊感に襲われる。 ─── こ れ は 夢 だ 。 ずっと仙道を好きだった自分にアルコールが見せている都合のいい夢に違いない。きっと今俺は自宅のベッドにいるんだ。そして夢を見ているんだ。そうに違いない。 返事もしないまま、牧はほとんど手付かずで残っていた地酒を自分の杯に注ぐと一気に飲み干した。そのまま一息もつかずに二杯目を注ごうと手を伸ばしたため、仙道は慌てて地酒の瓶をひったくる。 「ヤローに好かれてたっていう気持ち悪ぃショックも解りますけど、急いで飲み過ぎです!! これ、けっこうキツイから酔いが一気に回って危ないすよ!」 瓶を奪い返そうと手を伸ばしながら牧は焦れたように言った。 「覚めないように飲みたいんだ。返せ、瓶」 「はぁ? 何言ってるんすか?」 「だから。こんなに都合のいい夢なんて覚めたらもったいないじゃないか。酔いが一気に回ったらその分長く見れるだろ、だからよこせ」 テーブル越しに手を伸ばしていたのでは仙道の背中に隠されてしまった酒瓶には届かない。牧は掘り炬燵から出て這うように仙道のそばへと向かった。 「『都合のいい夢』って、あんた…。もしかして、俺に好かれてるのが……嬉しいってこと? ま、まさかだよね?」 「その『まさか』だったらどうだって言うんだ。これは俺の夢なんだから、俺の好きなようにさせてもらう。瓶、返せよ」 動いたせいで更に酔いが一気に回ってしまったらしく、仙道の隣にたどり着くと牧の上体がぐらりと大きく傾いた。そのまま仙道に抱きしめられる形となったが、それでも牧は腕を伸ばし背後の酒瓶を取ろうとしていた。 ギュッと仙道の腕に力が込められ、牧は動くのをやめた。抱きしめられたまま顔を上向けると、仙道のアルコールのせいだけではない熱っぽい瞳が見つめ返してきた。 「…お前の顔をこんなに近くでゆっくり見られるなんて。最高にいい夢だ」 にっこりと赤い顔で微笑んだ牧に仙道は吸い寄せられるかのように唇を重ねてしまっていた。 牧は全く抵抗をみせないばかりか、舌で唇を割ろうとするとすんなりうっすらと開いてくる。アルコールで熱を帯びた唇も舌も、全てが仙道にとっても夢のように恍惚とさせるものだった。 長い口付けに少し息苦しそうな呼吸をしだした牧に気付き、慌てて唇を離した。ただでさえ酒で動悸が早まっていたが、喜びのあまりに恐ろしいほどのスピードで高鳴る。心臓が飛び出しそうにすら感じて、仙道は震える声を抑えられないままに告げる。 「全く気付かなかったです……。だって牧さん、俺がどさくさに紛れて肩を抱いたり触れたりしたら、硬直しちまうんだもの。他の奴等にされてる時は平然と笑ってるのにさ、俺だとムッとして黙ってしまうし…。憎まれてるから仕方ないって思い込んでいたせいもあるんだろうけど」 「下手に動いたらお前の腕が離れてしまうかと思って動けなくなるんだ。それに、顔が赤くなったらヤバイじゃないか。バレちまうだろ。そうしたら…お前に迷惑がかかる」 ムッとしたのではなく照れ隠しでそうなったのだと思う、俺は顔が怖いから。そう呟いて悲しげに眉を少し寄せた牧の眉間に仙道の唇が優しく落とされる。牧はうっとりと目蓋を閉じ、口元に柔らかなカーブを浮かべた。牧の左目のホクロをたどってまた柔らかな唇へ同じ温度の唇が辿り付く。そうして何度か優しい口付けが繰り返された。 「いつから、俺のこと好きになってくれてたんですか?」 「さぁ……。もう数えるのをやめていたからな。お前は?」 「高校二年のインハイであんたと試合したの覚えてます? あん時に意識するようになって…大学の試合や合同海外遠征で会ってるうちにはもう、手遅れ。惚れまくりっすよ」 嬉しそうに照れた笑顔を浮かべた仙道が愛しい。素晴らしい夢だ。自分がこんな夢を見れるほど想像力が豊かだったなんて知らなかった。 「俺もお前を意識しだしたのは同じ頃だと思う。だが…こんな夢を見るほどに好きになったのは、お前が偶然俺の同僚になって一年目くらいだな」 「偶然じゃないです。俺があんたのいる職場を選んだんです」 「そうだったのか……」 「俺たちすっごい遠回りしてたんだね。相思相愛だってのに、信じらんないや」 「だな」 目と目を見合わせて、二人は同時に吹きだした。牧はもっと一緒に笑って酔いが更に回って、この夢がずっと覚めないようにとこっそり祈りながら。 仙道が二重にぶれ、天井が歪んで見え出した。しかも目蓋まで重くなってきている。夢の中でも眠くなるというのは不思議なもんだ…と、ぼんやりしだした牧を仙道のいたずらそうな目が覗き込んだ。 「ねぇ。今まではどんな夢を見てたの? 違う夢で俺をどうしていたんすか?」 「朝起きると俺は夢はほとんど覚えていないんだ。…そうだなぁ、他の夢でのお前はたいがいボールを持って笑っていた。一度だけ、お前が俺の肩に腕を乗せた時に俺が笑い返せてたというのがあって…。それを覚えていたその日はずっと嬉しかった。…他は……それぐらいしか覚えていない」 「…夢でまで欲がない人っすね。俺なんて夢の中じゃあ、あんたを抱いて抱いて抱きまくってたけどね」 「なっ!? だ、抱いてってお前…!」 これは俺の夢だから…ええと…仙道がこうして言っている言葉も俺の夢が作っているわけで……じゃあ俺は仙道に抱かれたいのか!? そうなのか?? 牧はブツブツ呟きながら真っ赤な顔で考え込んでいる。仙道はそんな様子を見つめながらフッと笑うと、また長い腕で牧を抱きしめた。 あたたかく心地よい仙道の広い胸に重くなった頭をもたれかけていると、いよいよ本格的な睡魔が襲ってきた。 「…夢なのに…眠くなるなんてな。こんないい夢、もうきっと見れないのに…惜しい…が、これ以上は贅沢ってもんだよな……」 目を閉じたままぼんやりと話す牧の目蓋に仙道の指が静かに触れる。 「いいですよ、寝て。俺が約束してあげます。この夢は正夢になるって」 「正夢か…。そいつはいいな」 「明日、仕事と練習が終わったら、一人で第二会議室に来て。そこで現実の俺があんたに好きだって告げるから。騙されたと思って本当に来て下さい」 「あぁ。…第二会議室…だな」 「うん。さぁ、このまま眠って。明日、現実の世界で会いましょう。おやすみ、牧さん。……愛してます」 「おやすみ…仙道」 「さて、どうしたもんかなぁ……」 膝に牧の頭を乗せ、その柔らかな髪を手で梳きながら仙道は作戦を練る。自分がタクシーで牧の自宅まで送っては、途中で鍵を開けさせるため起こしてしまうため、夢だったというのはちょっと信憑性に欠ける。成り行きとはいえどうせ騙すなら完璧にしたい。その方が断然ドラマチックだから。携帯で誰か呼んで、牧さんを送らせる……というのもちょっと微妙だ。 膝の上、牧の寝息が熟睡を感じさせる頃。扉がノックされて大学の先輩だった赤木の声が聞こえた。返事を返すと扉を開けていつ見ても立派なガタイをスーツに包んだ赤木がのっそりあがってきた。 「よう、久しぶりだな。近くまで来たんで店に顔を出して帰ろうと思ったら、魚住がお前等が来てるって教えてくれてな。せっかくだから相席いいか…って、何だ、牧は寝てるのか」 「お久しぶりです。そうなんですよ、ちょっと地酒を飲みすぎたみたいで、つぶれちゃったんですよね」 牧が座っていた席をすすめられた赤木は、面白そうに牧の様子をみて軽く笑った。 「牧はけっこう酒に強いはずなんだがな。こいつをつぶすってことは、お前が相当な酒豪ってことか。どうだ? 次は俺とやらんか?」 赤木はくいっと空のお猪口を飲む真似をしてみせた。既に赤木も違う店で飲んできていたらしく、少し顔が赤らんでいる。 「いや、流石に俺ももう限界なんで。赤木さん、すんませんけど、牧さんを自宅に送ってあげてくれません?」 「それはいいが、お前もう帰るのか?」 「はい。このままだと俺も牧さんみたくなっちまいますから。タクシー拾ってきます」 座布団を引き寄せ、そっと牧の頭を乗せると、仙道はふらついた足取りで立ち上がった。赤木も仕方なさそうに頷く。 「この埋め合わせは給料が出たときにでも必ずしますよ。なんだったら、魚住さんと一緒に四人であの釜飯屋ででも、どうです?」 「お? それはいいな。お前のとこの給料日ってことは、奢りか?」 「奢りにしてもいいっすけど……ちょっとお願いがあるんすよね」 仙道は赤木ににっこりと無邪気な笑顔を浮かべてみせた。 小さな音すらガンガンと鳴り響くほどの頭痛。朝食はもちろん、昼食もろくにとれないほどの酷い二日酔いではあったが、薬のせいもあり、どうにかこうにか二時からの練習時までには治まっていた。 着替えを済ませ体育館へ向かうと、もうほとんどのメンバーは集合していた。その中に仙道の昔から変わらないツンツンと逆立てた髪の毛がちらりと見えた。牧はすぐに目線をそらせ、壁際で柔軟を始める。 幸せな夢……しかも起きてまで覚えているなんて。 とても嬉しい反面、まともに仙道の顔が見れない。邪まな夢を見るというのは、目覚めてからがなんともバツが悪いものだなと、こっそり牧は苦笑を漏らした。 いつも通りのメニューが終了し、ポツポツと体育館から人が減っていった。いつもなら最後まで残っている牧も、二日酔いで疲れている体で無理をしてもと、早めに自主練を切り上げた。 シャワーを終えロッカールームでのろのろと着替えていると、「お先に」と仙道のいつもの挨拶を背中にかけられた。いつものように「お疲れ」と声だけ返す。 仙道が室内からいなくなってから、牧は誰にも聞こえないように呟くと同時にため息を漏らした。 「……夢、かぁ」 嬉しすぎる夢というのは現実とのギャップがありすぎて、かえって疲れるものだと思う。 「馬鹿だよな……」 第二会議室の扉の前で牧はぼんやりと立ち尽くしていた。いくら鮮明な夢だからといって、夢は夢。そう解っているのに足がここに辿り着いてしまった。 これでドアまで開いたらお笑いだ。そして更に中にあいつがいたら……。 「馬鹿どころか俺は大馬鹿だ」 首を軽くふりつつ、それでもせっかく来たのだからとドアノブに手をかけ、回す。 ドアノブがすんなり回った。驚きに手が止まる。誰か使っているのだろうかと、慌ててノックをしてみたが返事がない。 牧はおそるおそる扉を開いた。 驚愕に一瞬息が止まる。 「遅かったですね。さぁ、早く入って」 爽やかな笑顔で牧を迎え入れた仙道は、そのまま扉を閉めると後ろ手に鍵をかけた。 ホワイトボードの横に立った仙道がゆっくりと唇に言葉をのせる。牧は信じられないものを見ているかのように、その唇の動きをただ見つめていた……。 会議室の窓からは、月が見えた。 *end* |
んなバカなというような話ですみません(笑)設定としては同じ職場で |