<オマケ その1>
「今夜は随分と話し込んでしまったから、明日は夕方にでも起きよう。それから二人でアナグマ用の罠でも設置しようか」
「えー面白くなさそうな提案〜。大体、アナグマって何さ。熊みたいに美味かったりするの?」
「イタチ化で、熊よりかなり小ぶり……10kgくらいだが、味は格別美味いぞ」
「やる」
あまりの即決ぶりにシンイチは声をあげて笑った。
「設置して何日くらいで捕獲できるかな」
「なんだ、そんなに早く食いたいか? それなら俺が狩ってきてもいいぞ」
「それはヤダ。あんた狩りに夢中になると平気で三日くらい音信不通で帰ってこない時があるから」
「まだ根に持ってるのか。そう早く獲物なんて見つからんのだから、仕方ないだろ」
少々うんざりしてため息をつくと、アキラがフッと口角を上向けた。
「なんかさ。あんな真面目な話をしたあとで、また食い物の話してるとか。可笑しいよね」
「生きるってのはそういうもんだ。あとどれだけかは知らんが、生きてる限りはお前に美味いものを食わせてやるよ」
「ふふ。なんか愛の告白されてるみたいで気分いい」
今日話せて良かったと、どこか安心したような横顔を見せられたせいだろうか。シンイチの口から呟きが漏れ落ちる。
「……誰が最初に言ったか知らんが、上手いこと言ったもんだ」
「ん? どうしたの急に」
「いや、さっきの話さ。過ぎたるは及ばざるが如し。水であっても過剰に摂り過ぎれば毒になるもんな……って」
「血以外は知らないけど、そういうことだね。きっと今のあんたは2/3が人狼で1/3が吸血鬼なのかも。俺はその逆で、2/3が吸血鬼って感じなのかもね」
「俺の1/3が吸血鬼というのは乱暴だな、魔術も何もできんのだから。……ん? なんだよ、魔女と人狼の混血に加えて吸血鬼の毒入りとか、どんな珍種だよ俺は」
「そこは貴重種って言って。実際、世界に一人。長い歴史からみたって一人しかいないんだから。俺たちって今や夫婦そろって世界に類のない貴重な存在なんだよ」
「変化に適応しきれず寿命縮んでんだから、別に誇れるもんでもないだろが。貴重だからとこんな体になりたがる奴もいないだろうし」
「うっわ、身も蓋もない。けどさ、わかんないよ? 外見の老いが遅くなるなら体の不調による短命もかまわないっていう変人が出るかもよ?」
「だからって何百年も混血の人狼の血だけを吸うような吸血鬼や、己の血が薄まるほど吸われて毒盛られ続けるのをよしとする混血の人狼なんて現れると思うか?」
「ないね〜、そんな奇特な変人セットなんて」
「その言い草だと、俺たちは貴重な存在じゃなくて奇特な変人セットになるな」
「あー、しまった……。なし、今のなし」
いいじゃないか別にと笑えば、「麗しい俺達の愛も台無しだ」とアキラが演技臭く言いながらも笑った。
「これから先も、中身が猛スピードで年老いてくのに外見は変わらないから、誰も労ってくれないどころか若いんだからあれもこれもやれって押し付けられそうだよな。やれやれだ」
「あんたと違って俺は友達いないから、まじで良かった!」
「お前も相当身も蓋もないぞ」
<オマケ その2>
「なあ、このことをアカギ夫妻にも教えておいた方がいいよな? あいつらは俺たちほど婚姻歴は長くないが、これからも吸血し続けるとしたらさ」
「教えなくていいと思う。ちらっとアヤコさんに興味本位で聞いたことがあるけど、あの夫婦は牙で吸血してないそうだよ」
「? あぁ……コリン方式か?」
「そうそう」(笑)
「それなら確かに毒はまわらんからタケノリは無事だろうが、アヤコさんはお前と変わらんだろ?」
「んーん。主に人間から吸血してるって言ってた。アヤコさんは俺と違って人間の好みが煩くないし、大食いじゃないから狩りも容易なんだよ」
「そういうものか」
「あとね、もんのすごーく不味いんだって」
「不味いって、タケノリの血がか?」
「うん。タケノリさんは純血種なんだってね。だから狼臭くてエネルギッシュでくどいから極力飲みたくないってさ」
「あー……」
「それと、昔に一回だけタケノリさんの首から吸血した時に酷い目みたから、牙での吸血はもう絶対しないとも言ってたね」
「酷い目?」
「毒に免疫のないタケノリさんが理性を失って、文字通り狼男になったみたい」
「げ。それ……ヤバいだろ。あいつのあの体格に見合ったアレで野獣になられたら……」
「まる三日間くらい回復に時間かかったんだってさ。その間、使用人以上にタケノリさんをコキ使ったらしいよ」
「それくらいで許してもらえたなんて……愛だな」
「愛だね」(笑)
*end*