You may own a cat but cannot govern one. vol.01


くろすけさんのサイトの赤木店長が経営している猫カフェの、猫牧と
客の仙道というエロ可愛いイラストがあまりに素敵だったため。
その設定をお借りして梅園が書きました。掲載許可はくろすけさんから頂いてますv
牧が猫という不思議設定でも大丈夫な方のみ、お楽しみ下さいませv



 閉店時間まであと30分。しかもつい先程まで雨も降っていた。もう猫カフェに来ようと思う客などいないだろう。天候関係なく平日閉店30前という時間帯に客は滅多に来ない。店長の赤木はいつものようにスタッフ女子二名を早帰りをさせてやり、ぼちぼちと一人で片付けをはじめていた。よくこうしているのは、急に人手が足りなくなった時に突発出勤を頼みやすいからだ。実際、滅多にはないが頼んでも皆、快く引き受けて出勤してくれて助かっている。
───『“常日頃の良い積み重ねが人間関係には大事なのよぅ”……だよな』
 少し甘い妹の声を脳裏に浮かべて掃除をしていると、玄関から来客を告げるチャイムが鳴った。
「いらっしゃい。おお、今日は来ないと思っていた。随分と遅いな」
「こんばんは、赤木店長。なかなか忙しくて。えーと、閉店までお願いします。猫フードはオススメを一品」
「おう。今夜は牧、出てるぞ」
「ホントすか! やったー! 手ぇ洗ってきますね」
「洗ったらすぐ入っていいぞ、鍵は開いてる。おすすめオヤツはいつもの場所の持って入ってくれ。今夜はお前さんがラストだ、15分くらいオーバーしても見なかったことにしてやる。お得意さんにサービスだ」
「あざす!!」
 春先とはいえ夜はまだまだ冷える。寒そうな頬で仙道は嬉しそうに会釈をすると、勝手知ったる店内左奥の手洗いコーナーへ直行した。赤木はスタッフルームに早々に引っ込むと、飲みかけのマグカップと文庫本を手に、小さいソファへ身を沈める。他スタッフがいたり客がいればもちろんこんなことは出来ない。信頼できる得意客だからこそ出来る自由時間だった。


 去年の暮辺りから当猫カフェには仙道という、他の猫には目もくれず一匹の猫だけをひたすら愛でて帰っていく常連客がついている。
 その常連客お気に入りの猫の名前は「牧」という。生まれてまもない頃は「マキ」と呼んでいたのだが、僅か半年で当店内どころか一般的にみてもかなり大きい雄猫に成長し、あまりの風格に「牧」と漢字を当て直したのだ。普段は温厚だが怒らせるととても強く、まだ一歳半ながらも牧は既に当店の猫ボス的存在だ。人間でも怒った牧には近寄り難く、かなり手を焼かされる。
 雄猫としては大変立派な牧だが、カフェ猫店員としては愛嬌が足りず、自ら客に甘えにいかないため、人気はそれほどなかった。
 そんな牧を、何故か仙道だけは初めて来た日から首ったけなのだが不思議だった。
 仙道は牧が奥(客の目に触れない薄暗い小部屋で、猫の休憩スペース)で寝ている時に他の猫がすり寄って来ても、軽く撫でてやるくらいで、ただただ牧が奥から出てくるのを待っている。それだけで時間が終わる日などは、流石に気の毒になってしまう。
 そんなことが三度続いた時。『牧を起こしてやろうか』と、本当はやってはいないサービスをお得意様だからと申し出てやったのだが。
『寝たい時に寝かせてあげたいんで、いーす。俺が悪いタイミングで来ただけなんで』と、やんわりと断られた。
 とことん牧優先の、ここまでくるとちょっとアレだという客だ。だが他の、特に女性スタッフにとって仙道は、若く高身長で甘めの美形。加えて優しい物腰ということで密かに大人気客でもあった。

 店長の自分にしてみれば、猫を大事にする、ある程度清潔な客であれば外見はどうでもいい。それなのに仙道が気になる客となってしまったのには、別の理由があった。
 仙道が当店に通いだした最初のうちは、牧用のオヤツ以外に自分用に食べ物も購入していた。しかし一ヶ月を過ぎる頃には牧用のみ購入になり。三ヶ月を過ぎると二時間コースが一時間に変わった。最近などは今夜のように30分という時もある。
 理由は聞かなくてもわかる。社会人一年生という彼には金も時間もないのだろう。決して牧に飽きたわけではないのは、彼の牧への態度から一目瞭然だ。
 だが客の懐具合や勤務外の時間の少なさを心配してやる必要はない。店長の俺としては、客は金や時間がなくなれば来なければいいだけのこと。本来猫カフェは日頃の物寂しさやストレスを一時忘れて癒やされる場だ。無理してまで通う場所では決してない。
 そう理性では思っているのに。
「ごめんね牧さん……もっと一緒にいたいけど。なるべく沢山、長い時間来れるように頑張るからね……!」
 俺には見えてなければ聞こえてもいないと思っているのだろう。スタッフルームからは猫の安全のためにマジックミラーと隠しマイクで様子も声も筒抜けなのだが。
 あまりに毎度毎度、帰り際にはこうして、引きちぎられそうな痛々しい声音で牧にそっと囁くものだから。しかも牧猫もまた、この二ヶ月ほど前から仙道が帰る時にはいつも、他の客どころか飼い主の俺にすら聞かせたことのない「ナァ〜ン……」などと甘く細い鳴き声ですり寄るものだから。
 愛し合う者同士が一緒に暮らすのを許さない父親のような気にさせられてしまうせいだろう。気になって仕方がないのだった。

 しかし猫を飼うというのは、猫カフェで数時間会うだけとは全く違う。命を守る責任を負わねばいけない。ただ生かしておけばいい話ではないのだ。
 仙道が触れ合いスペースの扉からするりと出て、そっと締めたあとで。扉に牧がカリカリと小さく爪を立てる様子に、思わず赤木の口から本音が零れ落ちる。
「……愛情だけなら、いつ仙道に牧をくれてやってもいいんだがな」
 ため息を吐き苦い表情になっていた赤木だが、きっちりと店長の顔に戻してスタッフルームから出てレジへと向かった。


 レジで精算をし、赤木はいつも通りお釣りとスタンプカード、そして預かっていた仙道の黒い手提げ鞄を手渡す。
「はい毎度どうも」
「あの、赤木店長。今少しだけ、お時間いただけますか」
「かまわんが、どうした神妙な顔して」
 仙道は手提げ鞄から厚みのある封筒を出してレジカウンターへ置いた。
「ここに五十万入ってます。金の問題じゃないと言われるのは承知です。それでも俺、他に方法が思いつかなくて。この金は頭金で、残り五十万を半年以内に用意しますから。どうか牧さんを俺に譲って下さいませんか。お願いします……!」
 長駆を90度に折るようにして頭を下げられた。
「仙道さん……」
「百万くらいじゃ大事な看板息子の牧さんを手放せないのはわかってます。もしもう一年待ってもらえるなら、もっと用意出来ると思うんです。だけど今はこの頭金で週に三日。いえ、週一でもいいから俺に牧さんを預けてくれませんか? 牧さんともっと一緒に。まる一日を一緒に過ごさせて欲しいんです!」
 直角のお辞儀では気がすまないのか、仙道は長い脚を折って正座をしようとしたため、赤木は慌ててそれをカウンターごしに止める。
「よしてくれ。それより俺にも話をさせてくれ。立ち話もなんだ、あっちで話そう」
 赤木は客専用スペースのカウンター席へ仙道を招くと、紙パックのジュースを手に隣へ腰掛けた。ひとつを「飲んで落ち着け」と仙道の前へ置いてやる。
 身長190cm台の大男二人が並んで小さなスツールに座り、ストローで紙パックのジュースをチューチュー吸っているのはかなり間抜けだ。こういう場合、コーヒーなど用意できれば格好もつくのだろうが。いかんせん店仕舞でカフェの道具一式は洗って閉まったため、出すのは面倒だった。

 仙道はテーブルに両肘をつくと頭を抱えた。
「……牧さんに会って二日過ぎるともう、会いに行けない自分にイライラするんです。時間出来たときなんかに近場のペットショップとか覗いてみるんすけど、まっっったく心は動かなくて。そりゃ牧さんほど美丈夫な猫なんてこの世にいやしませんけどね。でも近い感じの猫がいたらって……この半年探し続けたけど、全然みつけられませんでした」
「そうか? 牧は珍しい種類の猫じゃないぞ?」
「そーいうんじゃねーんす! 牧さんはこの世で一番素晴らしい猫なんです!!」
 時間をかけてセットしていそうな、逆立てた髪型が乱れるのもかまわずに、仙道は己の頭をグシャグシャとかき乱した。わかってはいたが、相当重症なのが伝わってくる。猫とは人間を虜にする生き物だからわからなくもないが、彼は端的に言って牧にイカレ過ぎていて哀れをも誘う。
「随分と入れ込んでくれているがな。牧は猫の中ではボスだが、猫店員としてはあまり人気はないぞ。人気で言えば」
 赤木の話を遮るように、仙道は両手の平をカウンターへ叩きつける。
「人気とか関係ないす。俺には彼しか……牧さんしかいないんです。毛並み、香り、瞳、動き、ぬくもり……。彼の存在が俺を癒やし、俺に生きる幸せを与えてくれるんです」
 人の話を聞かん奴だと赤木は呆れた。しかも『彼』とか言い出しているし。
「愛して……いるんです、牧さんを」
 大真面目な仙道の呟きに、笑いたいのに笑えない。猫を飼う人間は猫に本気で恋をする者も多いのは、自分も猫を飼っているためよく聞く話でもあるからだ。しかしここまできたらもう擬人化のレベルか? しかも雄同士だから“擬人化腐男子”というやつか?? わからん。俺にはさっぱりわからん。帰ったら妹に聞いてみなくては。

 仙道の熱に当てられたのか、頭が混乱してしまったが、赤木はなんとか持ち直すと重々しく頷いてみせた。
「お前さんの本気はわかった」
 赤木はレジカウンターの上に置かれている封筒を持ってくると、中から三枚だけ万札を抜き出した。残りは封筒ごと仙道へ滑らす。
「この金で、うちが販売している猫用キャリーケースと猫用トイレ、爪とぎBOX、餌など必要なもの一式を売ってやる」
「赤木店長……?」
「お前さんの都合がいい別の日の、閉店時間後に牧を引き取りにこい。牧は大きいから、荷物と一緒には持ち帰れんだろ」
 仙道はまだ把握しきれていないのか、それとも信じがたい急展開に驚愕したのか、言葉もなく赤木を凝視したまま固まっている。
「勘違いせんでもらいたいんだが。多頭飼いをしているからって、牧を手放すのが辛いわけじゃない。俺なりに牧を大事にしてきたつもりだ。愛情だって平等にかけてきたと自負はしている」
 郷土玩具の赤べこのように仙道はふわふわとした感じで頭を上下に何度も振る。夢見心地のままに頷くとこうなるのかと、赤木は苦笑を漏らした。
「でもまあ、当の牧があんたを気に入っているし、あんたも大事にする覚悟もあるようだしな」
「あります、もちろんありますとも!! 牧さんに全て捧げますよ俺は!」
「それは困る」
「え」
 赤木は仙道が全く手にしようとしない封筒を、仙道の手へ強引に押し付ける。
「全てを猫に捧げるのはいただけない。猫を大事にして快適に過ごせるようにするのはもちろんだが、自分も大事に出来ないといかん。猫は20年くらい一緒に暮らせる家族だ。その長い間には病気にもなれば老いにより医者へかかる回数も増えるだろう。それを支えていくには、自分だって健康でなければならんのだ」
 病院へ何度も連れていっては、つきっきりで看病したにもかかわらず、虹の橋を渡っていった保護猫たちが浮かぶ。赤木は手に力を込める。
「餌代やら保険をつかえない病院代を払っていける経済力も必要だ。あんたはこの金を用意するために、うちに来る時間やカフェ代を減らしてきたんだろ? なら、この金は今後の牧とあんたが健康に暮らすために、大事に使うんだ」
 赤木は手を離した。仙道が封筒を強く握りしめる。
「よく『貧乏人はペットを飼ったらいけないってのか』なんて言う奴もいるが、俺にしてみればその通りだ馬鹿野郎って話だよ。命ってのは生きているだけで金がかかるものなんだ。愛だけで腹は膨れないし、病気も治りゃせんのだからな。自分も生きて、その上でペットも生かす。それが出来る者だけが、自分以外の命を背負う責任と、それに余りある幸せを得ていいと、俺は思っとる」
「赤木さん……」
「あんたは牧の命を背負える男だと、俺は信じて牧を手放す。牧を宜しく頼む」
 仙道は封筒を鞄に入れると、両膝に両手をついて深々と赤木へ頭を垂れる。
「ありがとうございます……! 牧さんと一緒に幸せになります」
「おう。出張の時なんかはいつでも預けにこい。たまには他の奴らに牧を会わせに連れて来てもいいぞ。その時は事前に連絡をくれ」
「はい。赤木さん、これから二人で暮らしていく俺たちに、どうぞご指導ご鞭撻を宜しくお願いします。……あ、ヤベ」
 目から溢れた水を仙道が乱暴に袖口で拭う。
「さっきは長々と説教臭い持論かまして悪かったな。どうだ、これから一杯飲みに行くか?」
「いっすね。牧さんが赤ちゃんだった頃の話とか、色々聞かせて下さい」
「おう。とっておきの写真も見せてやる」
 スマホを手にしてみせた赤木へ仙道は「やったー!」と拍手をした。

 照明を落とした薄暗い店内で同時に立ち上がる。
 方や父親心に、方や嫁(この場合は息子?)をもらう婿の心になりきってしまっている二人は深い笑みを交わした。
 扉を隔てた向こう、猫との触れ合いスペースでは、何も知らない牧が弟分の猫の頭を舐めてやっていた。







─── おまけの二ヶ月後 ───



「赤木さん、ちわす。牧さん連れて来ました〜」
「おう、お前さんも牧も変わりないか?」
「俺は変わりないす。けど、牧さんは……」
 赤木が経営している猫カフェの入り口の扉が閉まったことを確認すると、仙道は別注で特注の豪華巨大キャリーケースの鍵を開けた。暫くして、中からしなやかな動きで巨大猫の牧が姿を表す。
「なんだよ、毛なみもいいし、元気そうで変わりないじゃないか」
 しゃがんだ赤木の膝に牧が額をこすりつける様は、まるで挨拶を返しているようだ。
 赤木に頭の後ろを撫でられてゴロゴロと喉を鳴らす牧を見ながら、仙道はホゥッ……と悩ましげなため息を零す。
「変わりまくりですよぅ。もう、日に日に美しくなっていくもんだから、こちとら気が気じゃないんす。家から一歩も出してないのに……どうしてこんなに美丈夫なのかな牧さんは。尋常じゃないすもん……。やっぱ牧さんは猫じゃなくて神の使いだと俺は睨んでるんすけど……」
 立ち上がり覗き込んだ仙道の目には真剣さしかない。
「お前さんも相変わらずのようだな。ほら牧、入れ。仲間が待ってるぞ」
 赤木はいつものことだと相手にすることなく、猫専用の出入り口扉を開いて牧を通した。


*  *  *  *  *  *


 元々が多頭飼いされていた牧だから、突然一匹だけ離されてストレスを感じないか心配はあった。しかし牧を譲った当日の夜に仙道から来たメールと写真に赤木は安心して笑ったものだ。
 普通は初めての家での初日など、物陰に隠れて出てこないものなのに。『枕取られました。』と添えられた写真には、仙道のベッドを枕ごと専有し眠っている牧の姿だったからだ。信頼もあるのだろうが、牧の剛勇っぷりに舌を巻かされた。

 そんな二ヶ月前のことを思い返しながら、赤木は仙道にカウンター席をすすめて、自分も隣へ座った。待ち構えていたように女子スタッフが、「サービスです〜」と二人へアイスカフェラテを運んでくれる。「ありがとうございます」と微笑み会釈する仙道の横顔を見ながら、赤木は待遇の良さに内心苦笑いだった。
「そういえば魚住に聞いた話では、家での牧は随分とお前さんに甘えるそうだな」
「そうなんですよ〜すっげー甘えてきて可愛いんですよ〜。あ、でもね。宅配とか誰か来ると俺より先に玄関に出て、俺を守るように隣で見張るんです。で、業者さんがハンコくれって用紙を俺に渡そうとすると、牧さん威嚇するんすよ。俺に何かしようとしてるって思うんでしょうね、業者に唸るんです」
「本当かよ、俺は一度もそんなことされてないぞ? 飼い主というより舍弟みたいに牧に思われてんじゃないのか?」
「なんだっていいっす。牧さんが俺を守ろうとしてくれるなんて、最高に贅沢な話じゃないすかぁ。そーいうところは騎士っぽくて格好いいんですよぅ〜」
 爽やかで甘いマスクが崩れることなど全く気にしていないのか、仙道は盛大に鼻の下を伸ばして眉尻まで下げた。
 もともと牧はそう愛想の良い方ではなかった。それだけに、我が猫可愛いさで盲目な仙道の言うことなど信じきれない。
「俺はお前さんが牧に甘えられてるのを見たことがない。実際、さっきもキャリーから出した時に、牧はお前さんに見向きもしなかったぞ。そんなに懐かれているとは思えんのだが」
「う…………。それはたまに会う赤木さんへ気を遣ったんですよ、きっと」
 嫉妬が滲む視線を赤木へ寄越しながらアイスカフェラテを飲む仙道に、赤木は堪えきれずにぶははと笑い声を上げた。


*  *  *  *  *  *


「おお、もうこんな時間か。すまんな話し込んで。引き止めたようだ」
「いいえ、全然。今日はもう用事ないんで」
 赤木が猫専用扉を開けると、まだまだ子猫のルカワに続いて牧がのっそりと出てくる。赤木はルカワを抱っこして膝に乗せた。
 仙道は特注キャリーの扉を開けて、優しい声音で話しかける。
「牧さん、そろそろ家に帰りましょう」
「そんな、口で言っても」
 いいかけた続きの言葉を赤木は飲み込んだ。
 二度ほどキャリーの前でうろついた牧は、渋々ではあるが自らキャリー内へ入っていったのだ。
「ありがとう、牧さん。じゃあ閉めるね」
 甘い声で伝えてから、そっと扉を閉めた仙道が赤木へ向き直る。
「牧さんは頭が良いから、病院以外のお出かけの時は自分から入ってくれるんです。病院の時だけは、拝み倒さないと入ってくれないんですけどね」
 そんなとこも可愛いんですけど、と仙道が幸せそうに微笑む。
「それじゃ、お邪魔しました。また再来月も寄らせてもらいます」
「あ、あぁ……」
 呆気にとられている赤木と、いつの間にか後ろに並び立っていた他スタッフへ、仙道はにこりと笑みをひとつ残して去っていった。
 値段を聞くのが怖くて未だ聞けていないほど立派な、豪華巨大キャリーケースを連れて。

 まだぼんやりしている赤木に女子スタッフ達が寄ってくる。
「店長〜! 見ちゃいましたよ私達! 牧くん、自分でキャリーに入りましたよねっ」
「おお。俺も驚いた。牧なんて頭も勘も働くから、キャリーを用意した時点で隠れていなくなってたよな?」
「そうですよぅ〜。しかも牧くん大きいから、やっと抱っこ出来ても、抵抗されたら私達じゃ無理でぇ」
 そういえば小柄な女子スタッフに牧の扱いは難しいため、いつも入れるのは自分の役目だったと赤木は思い出す。確かに、あの手この手を使わないと捕まえることすらも出来なかった。
「仙道さん、すっごい牧くんに信頼されてて、めっちゃ安心ですね!」
「立派な飼い主さんだよね〜凄いよ〜。私なんてもう五年一緒にいるのに、未だに下僕扱いされてるのに〜」
「あ、それね。一生下僕だから。でもさぁ飼い主なんてそれが幸せなんだから、参っちゃうよねー」
「確かに! お猫様のために稼がせていただきます〜ってなもんだよねー」
 姦しい二人の会話を耳の端に流しながら。仙道よりもまだまだ自分のほうが長く飼っていただけに、赤木としては内心複雑であった。
 膝の上に飽きたルカワは、早く離せと言わんばかりに赤木の腕の中で手足を伸ばしだす。
「……お前はやらんぞ」
 猫扉を開けルカワを離しながら呟いた赤木の声はとても小さく、他スタッフの耳には届かなかった。









*end*











*next : 02




タイトルはKate Sanbornの言葉で、訳は「猫を飼うことはできても、支配することはできない」です。
タイトルと内容があまりあってませんが、一応赤木の心情ということで、大目に見て下さいませv

絵は定期検診に連れて行くべく、キャリーに入れる前におめかしの首輪をつけさせたい仙道と、
首輪をしていない開放感でご機嫌の牧猫です。
甘えてこられて、なかなかつけることが出来ない&出かけられない仙道なのでした。

ちなみに仙道が着ているパーカーの色は、くろすけさんの絵と同じ色にさせてもらっちゃいましたv
こんな場ですが、改めて。くろすけさん、掲載許可のご快諾をありがとうございましたv





[ BACK ]