Sugared lies.  vol.08


 牧が案内したのは中庭に面した校舎内の一角だった。木々や様々な種類の花と長方形に切り取られた空がガラス越しに眺められる、ベンチが三脚設置された人気スペースである。いつ通りがかっても全く空きがない場所だが、廊下で人とすれ違うことすらない夏休み中の今は予想通り貸切状態であった。
 日陰側のベンチを選び腰を下ろせば、クーラーなどなくても十分快適だ。
「いい場所っすねここ。……っと、退院おめでとう、牧さん」
「サンキュ」
 先程言いそびれた礼を告げて、牧は小箱を開けた。白い箱と白いクリームの中で苺の鮮やかな赤が目に飛び込んでくる。柔らかいケーキを潰さないようにそっとひとつ取り出し、残りは箱ごと仙道へ渡した。
「いただきます」
「はい、どーぞ。んじゃ俺も」
 仙道は素早くケーキを取り出して、セロファンをはぎながら尋ねる。
「美味い? 前とは違う店なんだけど」
「あぁ、美味いよ」
 返事に安心したのか、やっと仙道もケーキにかぶりつく。二人は小さな菓子パンを食べるように三口ほどで胃袋に収めてしまった。

 美味いと返したのは嘘ではない。けれど病院で食べた時よりも味気なく感じた。店が違うという話ではなく、あの頃と自分の気持ちの在り様が変わってしまったせいだと牧は感じていた。
 少し物寂しい気持ちで指についていたクリームを舐めとると、仙道が小さく呟いた。
「食べたいな。……その苺」
 牧は剥がしたセロファンの上に乗せておいた苺を仙道へ差し出す。
「あざす」
 軽く告げると、仙道は苺を己の口に放り入れた。ディールームで食べた時にも仙道の口に消えていった、生クリーム付きの苺。
(もしもこいつと恋人同士になれたなら、ケーキの苺はねだられなくても全てお前に食わせてやるのに)
 嬉しそうに咀嚼する顔を横目に未練がましいことを考えてしまう自分が嫌で、牧は全く別のことを口にする。
「ケーキってのはフォークで食べないと、あっという間に消えるな」
「フォーク使っても四口すけどね。もっと沢山買えば良かったな〜。立ち食いのつもりだったんで」
「いや、十分だ。お前に祝ってもらえて嬉しかったよ。ありがとうな」
 ほんの少しだけ、『お前に』を強調したことに仙道が気付くはずもない。それでも「そっすか」と形の良い眉尻を下げて笑みを向けてきたことで、牧の胸にじんわりと喜びが広がっていった。


「神から聞いてるかもしれませんが」
 仙道はそう前置くと、海南に出向いてきた経緯を話し出した。牧は相槌をうちながら耳を傾ける。
「そんなわけで、用事はもう済んでたんですがね。神が牧さんは今日の午後から来るって後輩に言ってるのを偶然聞いて。ここ来る前に見つけたケーキ屋に行って戻ってきたとこなんすよ。無駄にならなくてラッキーでした」
 電話はかけて来ないのに、すれ違い覚悟でケーキまで買う。仙道の気持ちが全く読めない。俺だって電話さえもらえれば、飲み物くらい用意できたものを……。
 仙道の笑顔で浄化されていたはずの暗鬼が胸の内で再びそろりと顔を覗かせる。
 もしかしたら自分達にとってはタブーかもしれない単語を、牧は仙道に聞こえるかどうかギリギリの小声で呟いてみる。
「…………電話」
「ああ、番号交換しておけば良かったすね。今、いいすか?」
 スルーされても聞こえていなかったと後で自分に言い訳できる音量で口にしたのに、仙道はしっかり拾い上げ、言われて初めて気付いたような軽さで返してきた。
 なにもかもが自然で気負いのない仙道に、お互い既に知っているはずだとは言えなくなり、牧は黙ってスマホを取り出した。
 受け取った番号を見つめているうちに目頭が熱くなり画面の数字が歪みだす。
 もしもっと早くにこうしていたら、仙道の母親が入院していないことを知ることもなく、退院が決まったとすぐに直接伝えられた。そうしていたら、馬鹿な勘違いもしなければ叶わない無意味な恋になど気付かずにすんでいただろうに……。
 たった一個ばかりのケーキが胃をもたれさせるわけもないのに、牧はやけにずしりと重く感じる胃のあたりに手をあてて、密かに下唇を噛んだ。


 スマホをしまった仙道が立ち上がり伸びをはじめた。やっと会えたのに、何か話さないとこのままではもう帰られてしまう。
 牧は焦りを覚えて、ガラスに手をつき中庭を眺めている仙道の横に並び立つ。
 なるべく入院中の頃の自分のようにと意識しながら、牧は努めて明るさを心がけて口を開く。
「見舞いの礼をしたいと思っていたんだ」
「いいすよ、んなの。俺が勝手に寄ってただけですから」
「ついででも、俺は楽しかった」
 今の良い空気を保ったままで終わっておけ、余計なことを言うのは止めろと脳の片隅が警報を鳴らすのに。
「焼肉、今夜はどうだ? 奢らせてくれ。あ、でもお前は母親の見舞いがあったな。そうだ、俺も見舞いに同行するよ。邪魔ならディールームで待ってる。美味い店があの辺にあるんだ」
 他意はないような面で、異論は挟ませないように一気に言い切る。そんな意地の悪い言動をする自分への動揺を押し隠して、牧が覗いた漆黒の瞳は。僅かな瞠目ののちに苦しげに逸らされる。
「……退院祝いをしたいのはやまやまだけど、今夜はちょっと急っつーか……」
 歯切れ悪い言葉の中に知りたい事の片鱗すら見つからず、牧の口は更に饒舌になる。
「じゃあ飯は今度にしよう。そういえば明日から伯母があの病院の婦人科に入院になったんだ。俺も届け物で何回か行くと思う。その時に連絡するから、いつも会ってたあの時間ぐらいに病院のロビーで待ち合わせてもいいな。そうだ、お前の母親の病室は何号室か教えてくれないか。同室の可能性もなくはないだろ?」
 咄嗟に出た嘘が仙道の眉根を曇らせる。そんな顔をさせたかったわけでは決してないのに、口から出してしまったので取り返しがつかない。
(なにやってんだ俺は……最低だ)
 胃液がせり上がってくるような自己嫌悪と不快感に牧は喉を塞がれる。

 嘘をついてまで追い詰めて、無理やり真実を引き出そうとしている。そのくせ視線を彷徨わせる仙道を前にして、今更聞くのが怖くなっているなんて。どこまで自分は勝手なのか。
 牧が項垂れかけたときに、視線を逸らしていた仙道が重そうに唇を開く。
「…………母は……その…………」
 俯き口ごもる仙道に辛さが募る。どうにかして大事な存在を隠し通そうとしている必死さが、そのままその存在の大切さを表しているようで。
 一瞬の逡巡の後、牧の唇が仙道よりも先に動く。
「すまん。伯母が入院というのは嘘だ」
「嘘……?」
 頼りない眼差しになっているのを自覚していない仙道を見ていられなくて、牧は自分の足元に視線を落とす。
「……退院の日に、お前の電話番号を教えてもらおうと婦人科でお前の母親を探したら、入院していないことがわかった。それで翌日、高頭監督にお前の電話番号を聞いてかけたんだ」
「あの電話、やっぱり牧さんだったんだ。実はね、牧さんかなと聞いてすぐ思ったんですよ。退院したことを伝えようとしてくれたのかなって」
 仙道は牧に向き直り背筋を正すと深く腰を折った。
「俺こそすみませんでした。母さんが入院してるなんて嘘ついたせいで、わざわざ余計な手間かけさせてしまって。さっきもまだバレてないと思ってたんで……すみません!」
「いいって。顔上げてくれ。謝らせたかったわけじゃない。俺はただ、知りたかっただけで」
 仙道の肩を押して上体を起こさせた時に視線がかち合う。
「知りたかったって……何をですか?」
 同じ視線の高さで、心の奥底を覗き込むようにゆっくりと問われた。牧は一瞬、胸に抱えている推論も仙道への想いも全てを吐露したくなった、けれど。
「……電話をくれなかったわけを。それと、お前は今、母親と住んでいるのか?」
 先程のミスを踏まえ、牧は慎重に言葉を選んで問うた。
「あの日は母さんがこっちに遊びに来たついでに俺んとこに寄っただけで。俺は一人暮らしっす。その日は俺がスマホ忘れてったんで、かわりに出てくれたみてーで。でも名前は覚えてなくて、もう一度聞こうとしたけど電話切れたからって、番号だけ書かれたメモを受け取ったんです」
「あー……あの時は俺、酷くテンパって早口だったかもしれん……。あ、けど電話は来なかったぞ。本当にかけてくれてたのか?」
「三回かけました。でも三回とも知らない同じ女の子が出て……。不審者扱いされたんだと思います、四回目は着拒されたのかつながらなくなりました。もし牧さんだったらまたかけてくれるかもと思ってはいたんですけど」
 あ、今持ってんだ……と、仙道は鞄の中から皺くちゃのメモ用紙を引っ張り出した。
 覗きみれば、“1”であるはずの番号が二つとも“7”と書かれている。名前を間違った焦りも加わって噛み噛みだった自分の「イチ」は「シチ」と仙道の母親に聞こえたのだろう。
「これは……かかりっこないすね」
「お前にもその見知らぬ女の子にも悪いことをした……すまない」
「いいえ、全然。悪ぃのは俺の母すよ。着歴見ようとして履歴開いたはいいけど、途中で自分のスマホに電話がきて、慌ててあちこち押したら履歴全消しになったって。謝りもしねーんすよ? 履歴残ってたらメモに頼らなくても済んだんですから、牧さんのせいじゃないす。大体、聞き間違ってんのが悪ぃし!」
「いや、早口で滑舌の悪かった俺が全面的に悪い」
「んなこたないす、牧さんは滑舌悪くも早口でもないよ。うちのババアが悪ぃんす!」
 機械オンチなくせに余計なことしたがりで……などとこの場にいない母親へ文句を続ける仙道に、牧は静かに首を振る。あの時の無様さを思い出してしまい、自業自得っぷりに目眩がしそうだった。

 ひとしきり文句を言い切った仙道が、また表情を引き締める。
「もし電話くれたのが牧さんなら、母が入院してなかったことはバレてるだろうから、嘘ついたことを謝まるつもりでかけてました。でも今日会っても牧さん、電話について何も言わないから人違いかと思って……しらばっくれてすみませんでした」
 また頭を下げようとした仙道を牧はすぐに止めてやめさせる。
「嘘など気にしていないし、腹も立ててなどいない。お前が"ついで"といってくれたから、連日立ち寄らせたことが負担にならなかったんだ。俺が」
 牧はすぐに唇をぐっと引き結ぶ。
─── 俺が腹を立てているのは、入院中にお前と連絡先を交換しなかった自分に対してだ。
 そこまで言えば芋づる式に勝手に恋に落ちてしまったことまでバレかねない。やっと電話が来なかった理由もわかり、また今まで通りになれそうなのに。みすみす関係を壊す恐れのあることを話してどうする。
 一度小さく深呼吸をして、ゆっくりと話す。
「俺は……お前の嘘に礼を言いたいくらいだよ」
 笑ってもみせたのに、仙道は眉間を狭める。探るような視線を浴び続けるのは辛いが、牧は努めて気付かないふりを通すしかなかった。

 二人の後ろを用務員らしき男が通り過ぎたのち、仙道が口火を切る。
「あんたが言いたかったのは……。いや、知りたかったのは、もっと別のことなんじゃないですか? ……聞いて下さい、答えますよ。四日も電話待たせたお詫びに、今日は嘘をつかないと約束します」
「『今日は』って。明日からは嘘を吐く気なのか?」
「はい。今、聞いといたほうがいいすよ」
 開き直り断言されてしまい、思わず喉から出そうになる。知りたいのはお前が大事に隠している存在だ、などと。だがその気になって彼のプライベートに踏み込む質問をして、嫌われて他人よりも悪い関係になるのだけは避けねばならない。友人としての立ち位置だけは死守したいのだから。

 それでもこの機会を逃したくはない牧は懸命に考えを巡らせる。
「…………何故、俺が別のことを知りたがっているとお前は思ったんだ?」
 癪に障ったのだろう、ぴくりと仙道の片方の眉毛が跳ねる。
「疑問に疑問で返すとか、上手いすね」
 挑発に乗らないことで、牧は返しのターンを仙道へ戻す。
 少々間は空けられたが、それでも仕方なさそうに仙道は口を開く。
「……どうして母親が入院していたことにしたか。婦人科にした理由とかは聞いてこないから?」
「婦人科なら病気の症状や治療などを俺が詳細には聞いてこないはずと踏んだんだろ。母親にしたのは、毎日通っても怪しまれないからじゃないのか。父親にしなかったのは、婦人科は使えない……てとこだろ」
「全部当たりっす。見事ですね」
「それくらいは誰だって察しが付く。茶化すな」
「想像がつくような理由は、本当に聞いてみたいことじゃあない。だからそれについてはわざわざ聞いてこない」
 遠回しな言い回しは暗に、俺に知りたがっていることがあるのはわかっていると言っている。また振り出しに戻された牧は返答に詰まってしまった。

 暫く探るような視線を交わしていたが、仙道が先に視線を外して溜息を吐いた。
「あんたが本気で知りたいのは。……嘘をついてまで毎日俺があんたのとこに通った理由じゃないですか?」
 突然胸の奥に手を突っ込まれて心臓を握られた感じに牧は身構える。
 知りたい。お前が隠している大切な者の存在を。真実に打ちのめされることで、この無意味な恋心に止めを刺し、粉砕してキレイさっぱり捨て去ってしまいたい。けれど、知ったあとで何故そこまで彼の恋人の存在を知りたがったのかと、逆に探られてしまうのが怖い。
「俺のとこに通った理由なんて…………餌付けが楽しかっただけだろ」
 真実を知るのを諦める代わりに、自分の恋心を絶対に気付かせないことを牧は選んだ。
「はあ? 食い物なんて毎度は持って行ってないでしょ。つーかさ、あんたは他校の先輩で俺とはバスケ以外に何も接点はないんですよ? そんな相手に毎日会いに通う俺をおかしいとは思わなかったんですか? 人恋しがってるならまだしも、あんたなんて部活の奴等すら面会止めてると最初から言ってたんすよ? なのに毎日……そこが気にならんわけねーでしょうが」
 予想外の仙道の語気の荒さに、牧は僅かに気圧される。
「病院へ通う必要がある間、ついでに寄っていただけ。お前はただ優しいだけで、何もおかしくはない」
「母親は入院してないって知ってもまだ『ついで』なんて、どうして言うんすか」
 売り言葉に買い言葉はミスを引き寄せる。わかっていながら仙道の剣幕につられ口が滑る。
「お前が最初に言ったんだろ、ついでだって。母親以外の誰が入院していたかなんて、俺が知りようもないだろうが」
 口にしたことで、仙道を毎日見舞いに通わせられる“誰か”への醜い嫉妬を改めて自覚させられて、牧は奥歯を噛みしめた。
 仙道は大きく息を吸って息を止め、一気に全部吐き出す。その背が力を失い丸みを帯びる。後頭部をガリガリかいて、苦い顔を牧へと向けてきた。
「ちょっと待って下さいよ……少し考えたらわかるでしょ。母が入院してないんだから、ついでってのも嘘だったってことぐらいさぁ」
「もう、俺にはなにも隠さなくていい。……お前が暴露してしまいたかったことを話せよ。聞いても全部、俺は自分の中にしまっておくことを約束するから」
「何を言って……。あんたが知りたいことを聞けって俺は言ってんのに」
 訝しさと警戒心が整った仙道の顔を僅かに歪めている。牧は仙道の肩にかかっている力を抜きたくて、抑揚を抑えた声で話す。 
「俺に聞いて欲しいことがあるのはわかっている。……俺が知りたいのは、それだけだ」
 恋人の存在を聞こうが聞くまいが、俺の恋は100%成就しないことに変わりない。それなら、何か俺に聞き出されたがっているお前が、俺に話すことで少しでも気が楽になればいい。今日言えなければ明日からまた俺に嘘をつかなければならないなんて、そんな窮屈から開放されたらいい。
 そう願いながら、牧は無理に笑みを作ってみせたのに、唇が震えそうで長くは持たず。すぐに俯くしかなかった。


 再び訪れた沈黙はもう辛くはなかった。
 日の差す中庭の壁は白く、空は青い。流れる雲も白くて、光を跳ね返す草木の影は濃緑色。恋情と嫉妬と諦観が渦巻く思考に疲れて、視界に入る色彩の情報と入れ替えようとしていた牧の横で、仙道が唐突に頭を掻きむしった。
「あんたの体を心配していたのは事実だけど。純粋な、本当の思いやりからとは言い切れない」
 前振りのない言葉には辛さや疲れ、痛みのようなものが滲んでいた。
「無理して話さなくていい。お前が平気なら、俺は今後も嘘をつかれ続けたってかまわないんだ。……そうだ、焼肉の日でも決めようか。来週でも来月でもお前の」
 仙道は牧の話しを遮るようにゆるく首を左右に振る。
「差し入れだって、あんたに無理やり買わせてんのがわかっていながら、毎日行く不自然さ隠しが欲しくて強引に引き受け続けた。あんたが言ってくれるような、優しい男じゃないよ俺は。本当の優しさや思いやりなんて綺麗なもんは、端から持ち合わせてなかった……自分の都合と下心ばっかでしたよ」
 仙道の唇は苦い笑みを形作ったのち閉ざされた。また語り出すのを牧は黙して待った。しかし見えている雲が端から端まで流れてもなお全く動く気配がなく、このままでも埒が明かないため促してみる。
「別に、親切の裏に都合や下心があったからってどうだってんだ。実際に親切しかしてないんだから、いいじゃねぇか。話し、続けろよ」
「…………続けたって……こんだけ言ってもわかんねーあんたにゃ無駄ですよ」
 鼻で笑い、諦めきった口調で返されて流石に癇に障る。仙道はどうしても俺から真実を言わせたいらしい。牧は自ら刃に刺される覚悟を決めた。
「お前が隠してるのは…………母親ではない別の誰かが入院していて、その人を見舞っていたってことだろ」
「違います。あんた以外誰も知り合いは入院してねーす。牧さんトコに直行直帰してました。あんたにとっては他に誰かが入院してたことにしときたい気持ちはわかりますよ。でも、いないもんはいねーんす」
 あっさりきっぱり言いきられ、牧は猜疑心すら持てず驚くしかなかった。
「お前は、俺に会うために二週間近く毎日電車とバスを乗り継いでたのか?」
「……ほらね、そういう顔するでしょ。引いて当然なんすよ」
「違う。引いたんじゃない。驚いたんだ」
「似たようなもんでしょ」
「ちっとも似てねぇよ。俺は自分の予想は9割、当たってると思ってたんだ。驚いて当然だろうが」
「すげー思い込み……」
 仙道は複雑な表情で考え込んでしまったが、牧もまた、再び早合点しそうになる自分を諌めるのに頭が忙しくなってしまっていた。


「……さん、牧さん。聞いてます?」
「ん?」
「げ。信じらんねぇ、なんでここで聞いてねえの?」
「いや、全部聞いてた。聞いてたよ。そんな顔するな」
「じゃあ俺の言ったこと反復して聞かせて下さいよ」
 酷く機嫌が悪くなっている仙道に慌てて、牧は一応耳に通ってはいたが脳を通していなかったと言い出せなくなる。
「……毎日来てたのも俺の体調確認がメインじゃなかったってんだろ」
「随分ザッパにまとめてくれますね……。まあそうですよ、だから本当の気遣いからじゃないし、俺は優しくなんてないってことです」
 大体あっていたようで、まだ渋い顔の仙道をみながらも内心で胸を撫で下ろす。
 仙道は拳を何度も開いたり握ったりを繰り返している。仙道の気を軽くしてやろうと思って話させたくせに、自分だけが気が軽くなってしまい申し訳なさを感じる。
 繰り返された言葉から推測するに、仙道の嘘というのは『本当は優しくはない自分』なのだろうかと思い至る。
「なあ。動機が自分のためであろうがなんだろうが、それはお前の領分であって。俺にはお前がした言動に対してどう感じたかしかない。俺は、お前を優しいと感じた。それのどこがいけないんだ?」
「いけなかないけど……。いい奴に思わせるように仕向けた、作られた優しさであんたは騙されてたってことになりません?」
 何か腑に落ちなくて、牧は腕組みをして考える。
「やけに本当かどうかに拘るのが、まずわからん。じゃあ聞くが、本当の優しさからであれば失礼をはたらいても相手は喜ぶか? 動機よりも、実際に起こした言動が全てじゃないのか?」
「そういう話じゃ……。つか、そんな極論言われても」
「本心かどうかなど絵に描いた餅だ。いくら美味そうだって腹は膨れない。いいか、お前が自分をどう思おうが自由だが、お前の行動から生じた俺の気持ちや判断を、お前が一方的に間違いだと決めつけるな」
 困惑した眼差しで仙道が見つめてくる。
「…………やっぱ怒ってる。まあ当然だけど」
 怒っていると思わせるほど、自分は何故熱くなってしまったのか。そう疑問を抱く程度の冷静さは戻ってきている牧は首を傾げる。
「いや、怒ってはいない。ただお前が拘るポイントが理解出来ないだけだ」
「この際だから聞いちまうけど。あんたは俺の小賢しさや狡さに何か思うところはないんすか?」
「小賢しいって、何かしてたのか? 全く思い当たらんが」
「ボディシートだって本当は買ったんです。もう一回あんたの肌に触りたくて」
 突然の生々しい暴露に、牧の呼吸が一瞬止まる。
 肌に触れたいなど。そんな、気があると誤解させるようなことを何故言う? もう自惚れた勘違いをするわけにはいかない俺に、なんて軽率な奴だ。今回の件で学んだが、俺はけっこう自分に都合よく物事を解釈しやすい性質なのにと、捲し立てたくなるのを牧は拳を強く握ることで堪えた。

 動揺を悟られないように用心しながら、牧は言葉を選ぶ。
「さっきも言っただろ。なにか思うところが含まれていたって、俺は実際ありがたかった。あんなのがお前の小賢しさや狡さなら、歓迎でしかねぇよ」
 驚いたのか長い睫毛を何度も瞬かせたのち、仙道はクッと片方の口角だけで笑った。
「どーりで……。そういう考え方なら、そりゃ気付かれないわけだ」
 軽く睨めば、仙道は苦笑しながら首を左右に振る。
「熱が冷めそうなコトも起こらなけりゃ嫌いになれそうなトコも見つけらんねー。もう嫌われちまおうって、下心全開でボディシートやドライシャンプー持ってったのに。あんたの態度が変わらなかった理由がやっとわかって笑ったんです」
 牧は口をぽかんと開けたが、目だけは仙道を凝視してしまっていた。
(下心? 下心というのはこの場合どういう……。いや、それより嫌いになれないってのはなんだ? 嫌いの反対は……っていかんいかん、また誤解しちまう。危ないったらねぇな、全く気が抜けん)
 すっきりと整っている額に仙道は不快そうな皺を刻む。
「……なんすかその、『なにを言いたいのか理解不能』って顔は。普通はね、引くんですよ。体拭きたいとか頭洗ってあげたいとか言われたら。なのにあんた、無防備に肌に触れさせるわ、頭も触らせるわで。後から振り返ってキモさで不快になったりしなかったんすか?」
「気持ち良かったとしか……」
  どんな顔をしているのか自分の表情筋に不安になって頬を片手で乱暴に擦る牧に、仙道はこれみよがしに長い溜息を吐いてみせる。
「善意にとる能力の高さに脱帽しますよ……。それと、気持ち良けりゃ誰に体を触られても平気なとこも」
 皮肉に腹が立つより先に、背中を拭いてもらった時のことが昨日のことのようにくっきりと牧の脳裏に蘇る。
 確かにあの場合、仙道以外であれば助けは求めず、着替え終えるまでディールームにいてもらっただろう。看護師にも『後は自分で出来ます』と早々に清拭を断ってもいた。もし仙道以外のやつにボディシートで清拭を提案されても、シートだけ受け取って遠慮していたと断言できる。ドライシャンプーだって母親ですら落ち着かなくて、『もういい』とすぐにタオルを奪っていたではないか。
 全身に血が巡り、汗が噴き出す。
「仙道…………それは、違う。俺は」
 俺は。もうあの時からお前に身を任せられるほどに気を許して。─── いや、違う。部活仲間にだって頼まない。てことは、俺は気を許すどころかあの時にはもう既にお前が好きで、無意識に甘えていたってことか?

 言いかけたまま固まってしまった牧を訝しみ、仙道が一歩牧へと歩み寄る。
「『俺は』、なんですか? ……ん? あれ、頬とか赤い? 大丈夫すか?」
 仙道が熱でもあるのかと、途端に心配そうな顔になり額に手を伸ばしてきた。汗をかいているであろう額に仙道の手がと考えるだけで、牧の体温は急激に上がる。
 額に迫る手を避けようと一歩退いたのに、仙道の長い腕には全く意味がない。
「……少し熱ぃみたい。すんません、立ち話で頭使わせて疲れさせちまったのかも。とりあえず座りましょう。少し休んだら部室まで送りますよ」
 先程までの会話などなかったかのように、仙道は安心させるように優しく微笑む。
 冷たい飲み物買ってきますねと背を向けた仙道へ、牧はひそめた、けれどしっかりした声で伝える。
「お前にだけだ。世話をやいてもらおうとしたのも、世話されることを受け入れたのも」
 そこまで一息で言い切ると牧は肺へ深く酸素を送り、一気に吐き出す勢いで告げる。
「誰にでもなんかじゃない」
 仙道がゆっくりと体ごと振り向く。
「…………続けて」
「勝手な自惚れだろうが、俺は……お前が俺を……。その………お前が入院中風呂に入れていない俺の匂いを嫌がらなかったり、ええと……いや、そうじゃなくて……」
 突然しどろもどろになってしまった牧に、仙道はとても辛そうに微笑む。
「自惚れなんかじゃないです。濃い汗の香りも。ドライシャンプーで薄まってしまった香りも。なんなら、汗でペタペタになってる肌だって。あの時にはもう、あんたの全部に触れていたいほど……」
 言い淀んだ仙道は、一息つくと自嘲するように肩をすくめてみせる。
「プレイヤーとしての牧さんだからだって。だから一回プライベートで会えば。しかも入院中で弱ってる時ならきっと、選手としてのあんたとはかけ離れているだろうから、幻滅まではいかなくても冷めるだろって舐めてました」

 はっきりとは言われていない。けれど恋愛ごとに疎い自分でもわかる。やはり自分の思い違いなどではなかったのだと、やっと確信できた。牧は足の力が抜け、安堵と共にとてつもない喜びが押し寄せてきて胴震いがでた。
 しかし心のまま手放しに喜べない、二人を取り巻く重い空気に困惑もしていた。下手な身動きひとつで仙道が“好きでした”と過去形に締めくくり去っていくような不安が背中に冷たい汗を浮かせたままでいる。
 仙道は牧の反応を全く確認することなく、立ったまま中庭の空を仰ぎながら話し続ける。
「……けど、かえって自覚するわ重症になるわの逆効果でしたよ。手術で顔が見れない日なんて、心配と会いたさで頭がおかしくなりそうで部活も散々でさぁ……」
 訥々と語られる静かな独白は、耳に意識を集中しないと取りこぼしてしまいそうにか細い。
「それでも…………電話番号だけは聞かなかったのに。あんたの退院が引き際だって決めてたから。なのにあんた、律儀に電話くれるし」
 もし自分から動くことなく仙道の嘘に気付かないままでいたら、仙道はこの先もずっと俺への想いを教えてくれることはなかったのだろうと、牧はキモを冷やす。
「そしたらやっぱ、もう一回くらい会っても許されんじゃねーかって決心揺さぶられるしで。結局全部、失敗しました。ノコノコ出向いて、番号まで手に入れちまうし?」
 乾いた短い笑いを零して、仙道は薄いまぶたを閉じる。
「……今だって、キモがられてフラれちまおうと暴露したのに許されて。あんたの懐の深さに更にまいっちまって。最初から俺は間違えたんだ。バスケから離れたあんたも知りたいって欲望を“見舞い”なんて理由にすり替えようとした時から……」

 相槌すら忘れ、仙道の横顔を見つめていると、そのこめかみから長い首へと一筋の汗が伝った。その美しさと紡がれる懺悔のような告白にすっかり魅了されてしまった牧を、頑なに空を見つめ続ける仙道には知る由もない。
「あんただよ優しいのは。真から強くて優しいから、疑いも探りもせずに厚意だけを受け止められる。……そうして嘘つきな俺は、全て自白して自滅する」
 きつく結んだ形の良い唇を震わせて、仙道が喉仏を上下させる。長い下睫毛は湛えた涙が決壊するのをギリギリで防いでいる。繰り返される強い瞬きが涙を弾くさままでも、牧は己の網膜に焼き付けたかった。
 解かれた唇が震えながら息を吸い込む。
「俺は……もう、何も手がない…………どうすりゃいいんだ…………」
 虚ろでなげやりに吐き出された問いかけ。それは多分、牧へではなく己へ向けたものだ。
 そう理解できていながら、牧の唇が勝手に動く。
「どうもしなくていい。俺を好きでいろよ」
 まだ一度も言われていない、多分仙道が避けている『好き』という言葉を使っても、今なら許される気がした。

 雲が流れ去り明るさが増した空が眩しいのか、仙道が目を眇めながらしきりと瞬きを繰り返している。先程まで湛えていた涙はもう渇いたのだろうか、溢れる気配はなかった。
 二度三度と開いては閉じてを繰り返していた唇が、漸く震えた声を乗せる。
「……どんな顔して言ってんすか」
「自分で見ろ。書いてあるから、顔に」
「嫌です」
 けっこう意固地なところもあるんだなと、こんな時なのに可愛くて仕方がない。牧は発火しそうに熱を孕む頬を持て余しながらも、「ははは」と小さく声に出して笑った。

 笑ったことで呪縛にかかったように固まっていた手足が動くようになっていたことに気付き、牧は立ち上がり歩み寄った。腕をあげて汗で濡れた仙道の首をぬぐうように手を添える。自分よりも明るい肌の色ではあるが、とがった喉仏を備えた逞しい男の首だ。触れてみて初めて、その体が放つ熱や震えを知る。
 そっと自分の方へ顔を向けさせれば、痛みを耐えるように仙道はきつく瞼を閉じてしまっていた。
「……そのまま、絞めてくれていーすよ。今、消えちまいてぇ」
「自殺ほう助で逮捕されたくない」
 触れている指先を離すことなく後頭部へと手を滑らせ、汗を含んだ硬い髪を逆立てるように撫でて頭を僅かに下げさせる。
「見ろよ、俺を」
「怖い……」
「そりゃ俺は強面だが、そう嫌うな」
 瞼を閉じたままで仙道は『そういう意味じゃない』というように口先を尖らせた、から。
 牧はその唇へ吸い付いてしまっていた。


 たっぷり十秒は口唇を重ね合わせていただろうか。
 急に両掌に後頭部を押し付けられて、牧は顔を引いた。
 眼前には耳まで赤く染めて唇を戦慄かせている仙道の顔があった。瞼はしっかりと開かれており、漆黒の瞳は真っ直ぐに牧を写している。
「……見慣れりゃそう怖い顔でもないだろ?」
 自分では見れないが、俺も相当茹っている。どんな面になっているかわからないけれど、もうお前を不安にさせるような面はしていないはず。
「好きだ。おそらくお前に体を拭いてもらった頃には、手遅れだったんだろう」
「だ、だろうって。んなわけ……。あんた絶対わかってない、わかってないよ。そんな簡単に……お、俺もあんたも男なんだよ?」
「俺の気持ちをお前が決めるなと、さっき教えただろ?」
「っ…………」
 仙道は顎を引きつつも、牧の腕を掴んでいる手は離さずに見つめ続ける。
 手の熱も、掴まれている痛みすらも仙道が与えてくれていると思えば愛おしく、牧は泣きたいような気持ちに駆られる。
「……なあ。俺と飯食ってて美味いってお前、言ってたよな。俺の手術が無事終わって良かったとも。あれは嘘か? あの涙は嘘泣きか?」
「違います。いくらなんでも全部に嘘なんて吐いてられねーす」
「全国でプレイする姿を見せるとも言ってたな」
「ウィンターカップでね」
「いや、冬は俺が……まあ今はそれはいい。本気で病院脱走計画を考えたりもしたよな」
 頷く仙道の汗ばんだ後ろ髪をそっと逆立てて、撫で下ろす。汗と整髪料の匂いがふわりと牧の鼻孔をくすぐる。覚えてしまったこの香りまでもとっくに好きだ。
 胸いっぱいに吸い込んで、満ちた幸福感そのままに牧は微笑む。
「“本当”だっていっぱいあっただろ」
 自分より少し背の高い男の頭と、熱を放っている背中に添えた手に力をこめて引き寄せる。
「お前は特別嘘つきでもなれければ、お前自身が思ってるほど嘘が上手いわけでもない。事実、俺は気付けていたんだろうよ。お前が隠していた“本当”を、いくつも」
 言葉にはしていなくても、向けてくる眼差しや触れていた指の優しさから伝わってきていた。思い返せばあの時の俺たちは、交わす言葉の何倍もの情報─── 素のままの感情を表情や行動で交わしあっていたのだろう。今更ながら羞恥に悶えてしまいそうなほど、無防備に。
「器用そうに見えるけど、俺と大差ないくらい不器用だよお前も。だから俺なんかに見抜かれて惚れられちまうんだ」
 背中に回されている仙道の手がシャツを強く握りこんでくる。
「もしもお前が、俺についてきた嘘がまだ気になるんなら、こう思っとけ。『結果オーライ。嘘も方便』てな」
「っ……!!」
 加えている力以上の強さで抱きしめ返された。表情は伺えなくても重なる体の振動で仙道が笑っているのがわかる。それから、じわじわと肩口が熱く湿っていくのは汗か涙だと。
 高過ぎる自分たちの体温も湿気も、肩が濡れていく変な感触すらも悪くない。
「不器用同士で似合いだと思わないか? なあ、俺の恋人になってくれよ。お前ともっと会いたい。一緒に行きたいところもしたいことも沢山あるんだ」
 小刻みに何度も頷く仙道が可愛くて、牧は仙道の熱い耳に火照った頬を擦りつける。
「返事は?」
「言うまでもねーでしょ!」
ものすごい鼻声の大声が、誰もいない廊下に響き渡った。




*  *  *  *  *




 練習をさぼったついでに、牧は仙道を駅まで送ることにした。少し迂回するが自分の家も教えておきたかったから。電話番号ひとつ知り得ないだけで散々な遠回りをした身としては、自分のことはなんでも仙道に知っておいてもらいたいし、仙道のこともこれから徐々に教えてもらうつもりだ。
 
 今が盛りと主張するようにひまわりが一列に咲き誇る脇道を並んで歩く。
「黄色のせいかなぁ、ひまわりって派手すよね」
「あぁ。丈があるから目線に近いせいもあるかもな」
「あーそっか。黄色やオレンジの花がよく歩道の……花壇? に、植えられてるけど、足元にあるせいかあんまり目に飛び込んでくるような感じはしないもんなー。なるほど、目線かー」
 仙道との何気ない会話ひとつで、ひまわりの鮮やかさが一段と増す。
 これから一緒に過ごす時間が増えると思うと、世界がまるごと変わってしまっても不思議じゃないような気がする。牧はひっそりと気付かれないように、それもまた楽しみだと口元をほころばせた。

 退院してからの牧の一連の苦労を知らない仙道は、牧の気も知らずに聞いてくる。
「いーんすか、サボって。しかももう家まで教えてくれるとか」
「いいんだ。まだ俺は自主トレのみだから。それよりお前こそ、時間は本当に大丈夫なのか?」
「へーきへーき。俺が主将すから。ボスの特権? 重役出勤?」
「陵南の副主将に同情する。が、今日のところは助かるな」
「助かるのは俺すよ。牧さんの家がわかったら、海南で張らなくて良くなるし。もし今日会えなかったら俺、また別の日に海南で待ち伏せしてたかもしんねーもん」
 実際に陵南まで。しかも二度も出向いたことには触れずに、牧はさらりと返す。
「今度はお前の家も教えろよ」
「もちろんですよ! 穴場のコートも、美味いコロッケ屋も、なんだって」
 力強く言っていた仙道の肩からふいに力が抜ける。
「なんだって……信じてもらえんなら、だけど。教えたいし、知ってもらいたいす。もう、嘘はつきませんよ……」
 落ちてしまった仙道の肩を牧は軽く叩く。
「言ったろ。お前の方便は歓迎だって。堅苦しく考えないで、せいぜい俺を気持ちよくさせてくれ」
「気持ちよく……」
 仙道が怪訝そうな声音で繰り返したため、牧はニヤリと片側の口角を上げてみせる。
「気分でも体でもなんでも。……時間あるなら家に寄ってから、なにか食いに行こうぜ。昼少なかったから腹が減った」
 己の腹へ手をあてる牧に、少し赤らんだ顔になっていた仙道は一拍置いたのち、文字通り両手を上げて降参した。
「あーもー、あんたにゃ勝てませんわ!」
 日差しを浴びるひまわりよりも鮮やかに、二人は同時に笑った。













* end *









タイトルの訳は「甘い嘘」。煩悩や下心を隠した言動を格好つけて表現してみました(笑)
初めての入院話をたっぷり書けて楽しかったです。


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