「おとなり失礼しまーす」


 飲み屋で偶然、牧と仙道は久し振りに再開した。
 したたか飲んで意気投合し、いい気分で駅に向かうが終電を逃してしまう。
 タクシーを拾おうと千鳥足で歩いているうちに、二人は小さなホテルを発見した。

 フロントにツイン一室を希望するも、ダブルの部屋しか空いておらず、牧が眉根を寄せる。
「いーじゃないすか、寝れれば問題ねっすよ!」
 まだアルコールが抜けない赤らんだ頬で、仙道は牧へ眩しい笑みを寄越す。
「だな。よし、その部屋でお願いします!」
 日に焼けた頬からは窺えないが、勢いのある声から牧もまだ泥酔中なの伝わってくる。
 パチパチと隣で仙道が拍手を送ると、万歳とばかりに諸手を上げた。
「わーい♪ 牧さんと一緒に寝られるなんて嬉しいなー」
「そーかそーか。先に風呂使っていいか?」
「どーぞどーぞ」
 部屋の鍵を受け取ると、二人は笑みを交わして拳を突き合わせた。

 意気揚々と部屋のドアを開けるなり、牧は「お先」と浴室へ直行した。
 熱いシャワーで酔いが飛んだ牧は、部屋へ入るなり驚きに足が止まる。
 狭い一室のほとんどを占める巨大なダブルベッド─── 。
 呆然と立ち尽くす牧の傍らを仙道は「風呂入ってきまーす」とすり抜けて浴室へと消えた。
 替え着などあるわけもなく。牧は脱いだ己のパンツと水色のワイシャツを身に着ける。
 流石にスラックスを履く気は起きず。かといってこんな格好で椅子に座って待つのも躊躇われ。
 牧は仕方なくベッドへと潜り込んだ。
(……あいつ……なんか飲み屋でやけに俺のことを好きだのなんだの言ってたような……。
 え。俺、もしかしてかなり危険な状況なのでは……)
 朧気な記憶に身を硬くした牧の背に上機嫌の声がかけられる。


「おとなり失礼しまーす」
 仙道の体重を受けてベッドのスプリングが軋む。
 空調の効いた快適な温度に保たれているはずの部屋の温度が1℃上がった気がした。
 妙な考えがよぎったせいで額にじわりと冷や汗がにじむ。
 考えすぎだ。気やすい調子で接する仙道のことだ。きっと他意があっての発言ではない。
 むしろこんな風に考えることが失礼なんじゃないか……と悩む牧。

「なんか牧さん緊張してます?」
 耳元で囁かれて反射的に振り返ると、思いのほか近くに迫った仙道の顔があり息をのむ。
 睫毛の触れるような距離で互いの視線が絡む。
 一瞬とも数分ともとれる沈黙の中、ふっと空気が緩み、スローモーションのように仙道の唇が……












* fin *







イラストより上は梅園が、イラストから下はブルボンさんが書いた小説です。
あまりに意味深なイラストを頂いてしまい、私が妄想をメールしましたら、
ノリが良くて優しいブルボンさんが続きの小説を送って下さったのですv
おかげで妄想連結列車が完成し、ぷち小説となりました。素晴らしい〜v
夜だけど電気を消さないのは牧がびびっているせいかしら…ムフ♪
ブルボンさん、豪華な誕生日プレゼントをありがとうございましたvvv