Photograph


 ロープウェーの出口から数メートル先に、多くの人々が眼下に広がる景色を背に写真を撮っているのが目に入った。
(写真撮るほどいい景色か? まあ海は見えるけど……展望台にのぼってから撮った方がいいんじゃねーの)
 そんなどうでもいいことをぼんやり考えていたら、後ろから愛しい恋人に声をかけられた。
「仙道? どうした?」
「あ、いえ別に」
「別にじゃないだろ。立ち止まってまで何を熱心に見てる?」
 熱心にと言われてしまい、そんなつもりもなかった俺はあまり深く考えずに言葉を紡いだ。
「けっこうデートしてるけど、二人で写真は撮ったことねぇなって」
 もともと写真を撮る習慣が俺にはない。牧さんにもない。たまに撮ってもお互い、建物や景色を一枚撮って終わりだった。それに対して今までも、もちろん今だって不満は全くないどころか、そんなことに気づくこともなかったのは。普段のデートと違い、今日は観光地に寄っている(目的地までのバスの乗り継ぎの空き時間潰しで)せいだろう。
 俺の発言を受け、改めて周囲を見渡した牧さんの視線がある一点で止まった。
 モニュメントの前では彼氏が彼女の肩を抱き、彼女は彼氏の肩に後頭部を預けるように密着して写真を撮っている。
(ああいう恋人同士っぽいのが撮りたいなんて高望みはしてないんだけどなー……)
 精悍な横顔はいつもと何ら変わりがない。それだけに、こんな人が多いところでああいうのは俺にはムリだと思っているのが伝わってくる。
「……おい、ちょっとあっち行ってみようぜ」
 牧さんは急に何か見たいものでも思いついたのか、俺の返事もまたずに歩き出した。
 迷いない足取りでぐんぐんと歩を進め、展望台入り口から逆方向。ロープウェーの真裏で、何も観物がないどころか人っ子一人いないところで足を止め振り向いた。
「いい景色だな」
 落下危険防止柵から先に広がるのは何の変哲もない景色だ。さっきいた所の方がまだ海ももっと見えてマシに思える。
「うん」
 でも別に景色にこだわりもないからお義理で同意をすると手招きをされ、俺は恋人の隣に並んだ。
「お前、スマホで自撮りできるだろ。撮ろうぜ」
「え。あ、はい」
 羨ましくて言ったつもりはなかったけれど、一緒に写真を撮れると思うと頬が緩む。
 ポケットから出したスマホをカメラモードにしていると右肩に熱を感じた。俺の肩に牧さんが頭を乗せている。
「ま、牧さん? あの、えっと」
 外なのに突然彼らしくもなく甘えた行動をとってきたため、喜びと戸惑いで声が僅かに上ずってしまった。
「撮りにくいだろ、空いてる手で俺の肩につかまれよ。……よし、撮っていいぞ」
「は、はい。えーと、はいポーズ?」


 

 焦って撮ったせいで何も考えていなかった。そのせいで外での貴重な肩抱きを収め損なってしまった。
「ごめん牧さん、やっぱ縦じゃなくて横で撮りたいんだけど」
「この体勢地味にキツイから、早く撮れ」
「うん。はい、そのまま───」
 二度目のシャッター音が消えると俺の右肩はすぐに軽さと涼しさと物寂しさを覚えた。
 肩を抱く理由を失った右手を仕方なく下ろすと、牧さんは俺のスマホを覗き込んでちょいちょいと指で操作した。
 画面に密着した俺たちが写っている。
 嬉しい驚きの連続に俺だけテンパって頬が赤い。でもそんなのはどうでもいいほど恋人らしい一枚に俺の胸はやたらと高鳴って忙しい。
「撮れてるな」
「はい。……こうして見るとさ、俺たちすげーお似合いだね」
「人には見せるなよ。俺の身長がかなり低いと誤解されちまうからな」
「理由そっち?!」
「俺にも後でデータ寄こせよ」
 強い日差しに目を細めて白い歯を見せた恋人は、今日一番の男前に見えた。











* end *









二人とも写真は人に撮られるものであって、自分で撮るという概念がなさそうですよね。
だから、いざ自分で撮るとなっても角度とか考えないで撮ってそうだなーと。
絵をクリックすると仙道が撮った二枚目の写真が見れますよ。
オマケの一枚目はここからどうぞ。





絵の背景素材はGabber様からお借りしました。
スマホ素材はてんぱる1様からお借りしました。