「めちゃくちゃきれい。こんなの初めて見た」 牧がその指差された上空へ目をやると、仙道の言った通り、今までに見たことのない空が広がっていた。 「すごいな…」 「うん、すごい」 他に明かりのない山奥から見る夜空は、そこに散らばる星々がこれまで見て来た以上に存在しているようだった。言葉が失われるほどに圧倒されて、牧はしばらくただ星空を眺めていた。 「牧さんもここ座らない?」 「二人は無理だろ」 仙道一人でも心許なく軋んだ音を立てそうな天板だった。牧は畳に腰を下ろし、仙道の足に寄りかかってまた空を見上げた。 「見える?」 「ああ、いいな」 まだ虫の音も聞こえない夜の始まったばかりの夏。昼間の暑さが嘘のように澄んだ空気は冷たかった。 ─── 志毛様著『山荘盛夏翳る』より ─── |