暑さと湿度が高止まりしたままの夏の夜。窓を開けることもできない。
まだ寝るにも早いがすることもないため、牧はなんとなくTVの電源を入れた。
しかし手の中のリモコンを隣に座ってきた仙道が奪い、電源を切る。
「クーラーもっと強く入れてよー。蒸し暑い〜。牧さん暑くないの?」
「心霊特集でも見たら涼めるかなと思ったんだが」
「んなわけないじゃん。暑いもんは何見てたって暑いよー」
「心頭滅却火もまた涼し……って、そんな顔するな色男が台無しだぞ」
「家ん中で熱中症になるー! シャワー浴びたのにまたベタベタすんのヤダ〜!」
「わーかった。わかったから、煩い。好きに設定しろ」
「やったー♪ はい、じゃあリモコン交換。好きなの見ていーよ」
「別にそれほど見たいわけじゃないんだが…」
仙道がご機嫌でクーラーの設定温度を下げているのを横目に、牧は再びTVの電源を入れた。

最近の幽霊はデジタル処理で作られているのがわかるだけに、怖さがない。
30分で飽きてしまった牧は番組を変えようとしたところで仙道に腕をとられた。
「どうした? まさか怖くなったとか言わないよな」
「全然。つか、つまんねー。別のがいい。変えて」
「何が見たいんだ?」
「別に〜。バラエティとドラマ以外ならなんでもいー」
仙道は子供がぐずるように牧へ強引に体を擦り寄せてきた。
「狭い。俺の足の置き場がない」
「俺の足に乗せてもいいよ」
「いや、それよりもう少し離れてくれれば。……はいはい、乗せさせてもらいます」
「そうそう。人の親切はありがたく素直に受け取るもんだよ」
「有難迷惑…」
「何か言った?」
「別に。ほら、お前の好きな岩…なんとかさんの猫番組やってるぞ。猫が…二…四……七匹もいる」
「猫なんて興味ないっていつも言ってんじゃん。前見たときはたまたま行った先がモロッコで…」
そう言いながらも仙道は視線をしっかりとTVに向けたため、牧は口の端を少し上げた。
今日の仙道はいつもより少し感情の起伏が激しく甘えがちだ。
滅多にないこういう姿を見せるのは俺にだけだとわかっているから、つい好きにさせてやりたくなってしまう。
少々窮屈ではあるが背中の隙間に無理やり突っ込んでこられた腕もそのままに、牧は黙って画面に目をやった。

猫よりはどちらかといえば犬の方が好きだが、猫も見ていれば面白い。
「ギリシャの猫も日本の猫も、好きなものは同じなんだなぁ」
「……うん」
「ああいう動きをするものに反応するのは万国共通か。そういや前もあれに似た……?」
肩にある仙道の頭部がふいに重みを増したため、牧は仙道の顔を覗き見る。
「仙道? ……眠たいのか? ……寝てんのか?」
「……」
返事もなければピクとも動かない仙道を驚かせないようにそっと耳に触れる。
「おい、そんな格好で寝ると疲れるぞ。ベッドで寝ろよ」
「……寝てない。あんたの体温が気持ちいーから…目ぇ閉じてるだけ…」
「クーラーきつく入れ過ぎなんだよ。耳も頬も冷えてんじゃねぇか。ベッド行け、風邪ひくぞ」
「ん…。一緒なら…ベッドでねる……」
「はいはい。一緒に寝てやるから目ぇ開けような。……ほら、起きろって。せーんーど〜」



目を開ける努力も放棄した仙道の腕をとり、引っ張って立たせる。
それでも目を瞑ったままぐらぐらと揺れて立ったままなので、牧は仙道へ背中をむけた。
「連れてってやる。両肩に両腕乗せろ、目ぇ瞑ったままでいいから」
「おんぶ?」
「できるかバカ。腰おかしくするわ。…おい、頭に顎乗せんなよ」
仙道の両腕が肩に、顎が後頭部にずっしりと重たい。眠気が直に伝わってくる。
牧はあきらめて頭に仙道の頭部の重みを乗せたまま、肩から下がる仙道の両腕を掴んだ。
「おら、行くぞ。足だけ動かせ」
「しゅっぱつしんこー」
「いっちにーいっちにー……右へ曲がるぞー」
「はぁい…みぎ〜」
「いっちにーいっちにー…くそぅ、自分よりでかい子泣きジジイなんてありかよ」
「おぎゃーおぎゃー」
「泣かんでいい。あーもーこの甘ったれが。ったく、暑ぃなぁ、重てぇなぁ」
「ふだんはもっと食え、肉つけろっていうくせにー」
「普段は自力で歩いてるからだ」
「じゃあ、ふだんも牧さん背負ってくれたらいーんだ」
「どうしてそうなる。バカぬかせ」

なんだかんだと言っているうちに寝室に到着した。
牧は仙道をベッドへ横たわらせようとしたが、おぶさるようにまわされた腕はほどかれる気配もない。
「着いたぞ。ほら、横になって寝ろ」
「あんたも一緒に寝るって言った」
「着替えくらいさせろ。チノパンでなど暑くて寝られん」
「じゃ、早く全部脱いで。んで、俺を全部脱がしてよ」
ベッドへどさりと腰を下ろした仙道が妖艶な笑みを作る。
先ほどまで子供のようだったというのに、もう今は雄の顔で抗いがたい色香を纏い、牧を誘う。
変幻自在の恋人の些細な仕草ひとつにも牧の視線は強く引き寄せら囚われる。
「……眠いんじゃなかったのかよ」
「さっきまではね」
「勝手な奴だ」
「あんたも俺を好き勝手にしたらいいよ。なんなら命令でもしてみるとか」
従うかどうかは命令次第だけど、などと付け加えながら仙道は下着一枚になった牧へ腕を伸ばしてくる。
牧はその手を取ると己の中心部へと導いた。
「じゃあ……お前を脱がしてやりたくなる気を起こさせてみろ」
「俺は勝手だけど、猫よりは役に立つことを教えてあげるよ」
「どうだか。すぐに飽きて放り出されそうだ」
フッと牧が口の端で笑みを作れば、仙道は楽しそうに目を細めた。
「役に立ったらご褒美を俺にぶち込んでくれるんだよね?」
「いくらでも」


暑さと湿度が高止まりしたままの夏の夜。
窓を開けることもできないのならば、鳴き声を抑えさせる必要もない。
猫というよりは油断のならない美しい猛獣─── さながら豹のようなこの男と。
いっそ獣のように本能の赴くまま情欲に溺れてしまおうか。









* END *




ガッツリ牧仙の夜です♪ 仙道が豹なら牧はなんだろ……黒豹?
私としては仙道は虎で牧はライオンでもいいかも。
きっとこのあと、空が白むまで営んでいたことでしょう。 
防音がしっかりしているマンションは様々な意味で良いですね〜(笑)

絵のポーズはトレスです。密着ポーズを見るとつい牧&仙道にしたくなっちゃうv
絵をクリックすると縮小前、二人の顔の部分アップが見れますよん。