とても天気が良かったので、少し車を走らせた。
田舎の何もない河川敷ぞいにパーキングがあったのでそこへとめて、俺たちはのんびりと歩いた。
眩しい日差しと、数日前に刈ったのであろう濃い緑の香り。時折ざあっと草を揺らして吹き抜ける風。
何もないといえば何もない。自然だけでいえば全てがある。そんな穏やかな風景が広がっていた。
「ここに寝転んだら気持ちいいだろうなー」
「すればいいじゃないか」
牧さんは軽い返事をするなり、緩い傾斜のある場所へ降りて行った。俺も後へ続く。
むせるほどに濃い草の香りは意外にも地面に横たわった方が薄く感じられた。
「下から風が吹き上げてくるんだね。あー……いい感じだなぁ。別世界に来たって感じ?」
瞼を閉じても日差しが透けてくる。
ちょっと明る過ぎるから昼寝には向かないと思ったところで、ふっと薄暗くなった。瞼を開くと上から牧さんが俺を覗きこんでいた。
「目ぇ閉じてろ」
「キスでもしてくれるんすか?」
バァーカ、と頭の上からのんびりした声が降ってくる。笑いながら目を閉じると大きな手にふわりと頭を持ち上げられた。
「うん? なんだろ、ゴツゴツしてる」
頭を何かに乗せられたけれど、目を閉じているから何に乗せられたか分からない。
「痛いか? 俺の靴の横っ腹なんだけど」
「痛くはないよ。……あ、この位置、いい感じ。頭も首も楽」
「そうか」
牧さんが日よけになってくれて、丁度良い高さの枕のおかげもあって眠気が下りてくる。
「……気持ち良くて眠くなっちゃうよ」
「少しなら寝ていいぞ」
「うん……。でも寝るのもなんだかもったいない」
なんだそれ、と笑いを含んだ声が耳に優しい。
「長い長いと思っちゃいたが、こうして改めて見ると本当にまつ毛長いなお前……」
そっと触れてくる指先までがこの上なく優しくて、心の中だけじゃなく全部がくすぐったくて笑ってしまう。
「牧さん」
「ん?」
「膝枕よかなんだか落ち着く、この靴枕。それに日陰の具合もすっごーく気持ちがいいよ。牧さんにもしてあげる」
「俺はいいよ」
「いーからいーから。あと三分したら交代ね。牧さんも体験しないともったいないって」
「三分でお前が寝落ちする方に賭けるね俺は」
「そこは起こしてくんなきゃ。牧さんだって足痺れちまうじゃん」
どこという名前もない場所で。
どうということもない会話を交わす。
だけどちょっと特別な距離感で。
この幸せに何か名前があったらいいのにな。そうしたら、また“あれ”しにいこうよって誘えるのに。
何かないかな。だだっ広くて風が適度に吹いてて、人がいなくて
牧さんが人目を気にせず穏やかにこうして…甘やかしてくれる…ような……
「……まさかもう寝たのか? おい、仙道? え、もしかしてマジ寝?」
─── 空、緑、光、風、そして愛しい人の優しい指先。なんてパーフェクトな初夏!
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