学校が休みでも部活は休みなしにある。
その上、俺達は学校も学年まで違っている。
そのため休みが重なることなどほとんどない。
会える日すら限られているような、こんな状況で。
同性同士というあり得ない関係でもありながら。
俺達は恋に落ちていた。
たっぷり半日丸々一緒に過ごせた。
バスケ抜きで、ただのデートなど初めてかもしれない。
待ち合わせ中は、会っても何をしていいのか分からなくて、
飯を食い終わったら残りの半日何をして過ごせばいいのだろうなど。
そんなことを考えていたのが嘘みたいだ。
もう、帰さないといけないなんて。
もう、帰らないといけないなんて。
夏は日が落ちるのが遅いから、まだまだ一緒にいられると思っていた。
「時計なんて見るんじゃなかった」
思わず口から出た言葉に仙道が頷いた。
せめてもう少し家が近かったらとか、また明日会える約束ができるだとか。
そういうどうにもならないことを考えそうになるのを無理やり振り切る。
「仕方がない。帰るか」
苦笑いをしたところで、ふいに右手をとられた。
あまりに信じられないことをされたもんで、
マヌケな叫びをあげそうになったが寸でで堪えた。
いくら周囲に人がいないからって、お前、何やってんだよ!!
つか、手をよけろよ俺! 黙ってされるがままになってんじゃねぇよ!!
「……俺、原付の免許取ろうかな」
仙道が喋るのにあわせて唇が動く。
そのかすかな動きが手の甲にまだ伝わる。
熱い吐息と一緒に。
「そしたら、バスとか電車の時間考えねーで、もっと一緒にいれる」
熱い溜め息と一緒にいきなり言葉が胸に沁みこんで来た。
それと同時に、脳内に190cmと大柄なこいつが長い足を折り曲げて
窮屈そうにバランス悪くスクーターに乗ってる絵が浮かんだ。
笑いたいほど滑稽なのに、全然笑えなくて……。
「俺、冬の選抜が終わったら免許取るから。お前はやめとけ」
「え? 牧さんも原付とんの?」
「バカ。四輪の免許だ」
「あぁ、そっか。取れる年齢なんだっけ。なら車のほーがいいよ絶対」
「俺がスクーターに乗ったらサーカスの熊と間違えられて撃たれそうだ」
「うっわ、ありえるありえる!! そりゃヤベー!!」
「腹抱えて賛同すんな。お前笑い過ぎだ」
離されて自由になった手が涼しいのは、二人分の汗が気化していくからか。
それとも離れたことにホッとしつつも、やけに淋しいからだろうか。
でも、いい。暑いから。顔も頭ん中も胸ん中もなんもかもが。
それに、ほら。
「あー、笑った笑った。うん。じゃ、まぁ。牧さんが免許とって
カッコイイスポーツカーで俺を送り迎えしてくれるまでは。
しゃーねー、バスに間に合うように帰りますか」
沈みきるギリギリの太陽を背に、仙道が俺の大好きな顔で笑った。
*end*