牧の友達が脱サラして、夫婦で喫茶店を始めました。開店して数ヶ月、
漸く軌道に乗りはじめましたが、バイトが急病となり人手が足りず四苦八苦。
頼みの綱の奥さんも日曜日ははずせない用事があって、店主一人の営業となってしまいます。
休業したくない店主兼友人から、日曜一日だけ助けてほしいと牧に連絡が入りました。
事情を聞き快く引き受けた牧は、バイトの前夜、足を引っ張らないようにと
自宅で仙道を客にみたてて接客の練習をして備えました。
そうして迎えた喫茶店での一日バイトの日曜日。
牧には来なくていいといわれていた仙道ですが、やはり気になりお店に顔を出してしまいました。
まだ早朝の客が少ない時間帯。驚く牧に仙道は照れた顔で会釈をすると
カウンター席の一番隅に腰掛けてモーニングセットを注文しました。
厚切りのバタートースト、添えられたレタスのサラダ、ゆで卵。そして薫り高い珈琲。
特に珍しいメニューではないですが、やけに食欲をそそられます。
仙道は持参した文庫本をわきに置くと、早速食べはじめました。
牧は最初から給仕と皿洗い以外はしないことになっています。
けれど店内全ての客に注文の品がゆきわたると、店主が「友達に一杯入れてやりなよ」と
言ってくれたので、牧は直接、仙道の目の前で珈琲を入れることになりました。
牧
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「お前は心配性だよなぁ。接客練習もしたし、そうヘマしないと思うんだが」 |
仙
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「ヘマが心配で来たんじゃないすよ。俺が暇だっただけ。様子見がてら朝飯食おうかなーって」 |
牧
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「休みの日のこんな時間、いつもなら寝てるくせに。目覚ましかけてわざわざ来たんだろ」 |
仙
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「俺のことはいーの。それより、早く入れて下さいよ。牧さんのコーヒーが飲みたいっす」 |
牧
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「…店長のコーヒーと比べんなよ」 |