夜景を見に行こうと無理やり連れ出された。雪が降りそうなほど寒い夜に。


「もう十分見た。寒いから帰りてー」

「……ちょっと貸せ」

「何を?」



突然冷え切った自分の手を、それより少しだけ暖かいだけの、けれど力強い手が包んできた。
驚いて追った視線の先。
包まれた手からはみでている真っ赤な自分の指先に吐息が吹きかけられる。

柔らかく、あたたかい、真っ白な吐息に指先がじんじんと感覚を取り戻してゆく。


「ちっとはあったまったろ。あっちも寄ってくぞ」

指先ごと、今度は奴のポケットへと突っ込まれた。

「……恥ずかしー奴」


わざと不機嫌そうに言ってから、狭いポケットの中で自分から指をからめてやった。


「…オメーだって十分恥ずかしーヤロウだぜ」



指先の温度ではまだ負けているけれど、頬の温度はきっと同じだと俺は思った。






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