|
舐めるように見つめてくる仙道のことなど視界に入っていない牧は、
さめざめと立ち上がりました。
牧 |
「…帰宅してすぐ脱ごうとしたんだ。
そしたら帰りに雨にぬれたせいではりついて全く脱げなくて……。
乾くまでヤケ酒飲んでたら寝ちまってた……」 |
仙 |
「そうだったんですか…。俺が脱がしてあげますよ」 |
牧 |
「いや、いい。革パンと一緒に下着まで脱げると思うから自分でやる」 |
仙 |
「……ますます俺の出番じゃないすか」 |
牧 |
「何か言ったか?」 |
仙 |
「い、いいえ〜別に」 |
|
|
|
|
|
とりあえず落ち着くよう、仙道は牧を座らせてビールをつぎました。
仙 |
「さぁ、飲んで飲んで! 嫌なことはパーッと忘れましょう!」 |
牧 |
「おう! これが飲まずにいられるかってんだ」 |
|
|
玄関から戻ってきた仙道の手にはギターが。
牧 |
「!?」 |
仙 |
「革パンといえばROCK!」 |
牧 |
「そのギターどうしたんだよ!?」 |
仙 |
「二次会のビンゴの二等賞賞品です!」 |
牧 |
「凄いな!」 |
仙 |
「ROCKに欠かせないのはギター!!」 |
|
|
|
牧 |
「……渡されてもギターなんて弾けん」 |
仙 |
「SOULがあれば大丈夫!」 |
牧 |
「そんなこと言われても弾けないって……」 |
仙 |
「サマになってますよ牧さん!!
何か俺、燃えて熱くなってきました!」 |
仙道、牧のギターを持つ姿に満足のガッツポーズです。
|
仙 |
「牧さんは松本で、俺は稲葉っすね!」 |
牧 |
「お前、凄ぇ酔っ払ってるだろ?」 |
仙 |
「♪どれだけ頑張りゃいい〜誰かのためなのぉ〜 分かっているのに〜思いはぁゆらぐう〜」 |
牧 |
「歌い出しやがったよ、ビール瓶持って」 |
仙 |
「松本さん、ギター頼んますよ!」 |
牧 |
「誰が松本だ。畏れ多い」 |
牧は根負けしてデタラメに音を出しました。
仙 |
「その調子! カッコイイすよ松本さん!
♪結末ばかりに気をとられぇ〜」 |
牧 |
「……楽しくなってきた」 |
仙 |
「俺はとっくに楽しいです!
♪この時をたのし・めない・メマイ!」 |
|
|
酔っ払いの二人は徐々にヒートアップしていきます。
ちなみに現在二曲目。
仙 |
「♪誰かのいいなりやってるならひっくりかえせ〜」 |
牧 |
「♪Dance with The Fear〜」 |
仙 |
「♪不満をたらたら垂れ流すんなら変えてみろ〜」 |
牧 |
「♪Dance with The Fear〜 Uh ! Yeah yeah yeah〜」 |
仙 |
「♪ちっちゃくプルプル震えるくらいなら暴れろよ〜」 |
牧 |
「♪Dance with The Fear〜」 |
仙 |
「♪コメツブほどのプライドをダイヤのよに光らせて〜 |
|
|
|
仙 |
♪Dance with The Fear〜 Uh ! Yeah yeah yeah〜 Dance with The Fear」 |
牧 |
(ギター音)♪ジャカジャカジャカジャカ |
仙 |
「♪Dance with The Fear
Dance with The Fear
Dance with The Fear」 |
牧 |
(ギター音)♪ジャカジャカギャギャーン! |
仙 |
「Dance with The Fearー!!」 |
|
牧 |
「……」 |
仙 |
「……」 |
牧 |
「…………イケてるのか俺達は?」 |
仙 |
「…………スッゲ、最高イケてます」 |
牧 |
「………………やるな、俺達」 |
仙 |
「………………観客いたら総立ち確実?」 |
|
|
|
|
仙 |
「パンパカパーン。素晴らしいギターテクの貴方に賞状が贈られます」 |
牧 |
「おお、ありがたく頂戴しよう」 |
仙 |
「素晴らしいボーカルの俺には牧さんから熱烈なキッスが」 |
牧 |
「贈られません」 |
仙 |
「せめて最後までいわせてよ〜」 |
牧 |
「煩さい。酒くせぇ」 |
|
|
牧 |
「名前書いてねぇじゃんか」 |
仙 |
「後で書いときますよ。これはきくぞうさんがくれたんです」 |
牧 |
「この内容変だぞ? バレンタインデー?」 |
仙 |
「まぁまぁ。お遊びなんだからいーじゃん。ね」 |
|
|
|
|
|
仙 |
「これがエレキギターだったら、俺達B'z 2号でデビューできるよ〜」 |
牧 |
「随分音感がない上にデカイコンビだな」 |
仙 |
「ビッグな新人現る! 音楽もガタイも桁外れ!
コンビ名は“ 籠球BlGMACHINE ”」 |
牧 |
「おお。なかなかいいじゃないか」 |
仙 |
「そうでしょそうでしょ♪」 |
二人とも、相当酔っ払ってます。
|
|
牧 |
「よし、今度は俺がボーカルやる!
♪皆が皆 奮い立ち〜 類まれなるコンセントレーショ〜ンで、」 |
仙 |
「お? アコギ曲じゃないすか♪ いい選曲っすね〜」 |
牧 |
「だろ? ♪働いて飲んで食って暮らす〜 夢の〜ような日々〜」 |
仙 |
「Oh Yeah〜」 |
止める者もツッコミも不在の酔っ払いカラオケはエンドレス。
|
|
アホ男夫婦の宴は大いに盛り上がり続けて─── 翌朝 ──
|
仙 |
「ヤベ……具合悪ぃ」 |
牧 |
「……腹痛ぇ」 |
仙 |
「あ、頭割れそう……」 |
牧 |
「俺、ゲロ吐きたいかも……」 |
仙 |
「…ここで吐かれたら、もらいゲロしちゃうよ俺、確実に」 |
牧 |
「最悪だ」 |
─── この後、二度と籠球BlGMACHINEが真夜中のオンステージを行うことはなかったのでした。
|
|
|